ビューティフル・デイの映画専門家レビュー一覧
ビューティフル・デイ
第70回カンヌ国際映画祭脚本賞と男優賞を受賞したスリラー。行方不明者捜索のプロのジョーは、州上院議員ヴォットの十代の娘ニーナを売春組織から取り戻してほしいと依頼を受ける。ジョーは無事にニーナを救出するが、思いがけない事件に巻き込まれていく。監督は、「少年は残酷な弓を射る」のリン・ラムジー。出演は、「教授のおかしな妄想殺人」のホアキン・フェニックス、「デッド・サイレンス」のジュディス・ロバーツ、「ワンダーストラック」のエカテリーナ・サムソノフ、TVドラマ『LAW & ORDER:犯罪心理捜査班』のジョン・ドーマン、「SHAME シェイム」のアレックス・マネット、「アメリカン・ハッスル」のアレッサンドロ・ニヴォラ。
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ライター
石村加奈
孤独な「ひとり」と「ひとり」が対峙する、二人のシーンが印象的だ。ジョーが年老いた母と銀食器を磨くシーン。母を殺されたジョーの逆襲に遭い、キッチンで死にかけた男がシャーリーンの『愛はかげろうのように』を口ずさむシーン。暗い画面の中に、優しさやユーモアがほの明るく灯り、孤独な人間の心に満ちた怒りは哀しみへと変わっていく。静かな変化を、息を潜めて観るのは苦しいが、ラストシーンが素晴らしい。ジョーとニーナの迎える朝は、最後に残る気配まで表題通りの美しさだ。
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映像演出、映画評論
荻野洋一
死の誘惑に取り憑かれた凶暴な男が、ブロンド美少女を性的虐待から救出する構図は、あまりにもハードボイルドの典型に収まっているが、少女を演じたE・サムソノフはワシコウスカやファニング姉妹の衣鉢を継ぐスターとなるだろう。ティクヴァ、W・レフンなどと続いたナルシス的幻想サスペンスは、トム・フォード「ノクターナル・アニマルズ」で頂点を極めたかに見えたが、現代映画はこの新ジャンル開拓に適した時代らしい。ディストピア内面化時代に相応しいグロテスクだ。
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脚本家
北里宇一郎
まるで「タクシー・ドライバー」の修羅場のタッチで、ハードボイルドの探偵ものが綴られているような映画。精神を病んでいる主人公。母親との生活は「サイコ」みたいで。迷宮をさまよっている感覚。だけどこのギザギザしたスタイルには心地よさが。音楽の選曲のセンスも含め、映画全体がカッコいいのだ。少女の救出が、子ども時代のトラウマからの解放になる――という物語の芯がカッチリしているから、どんな混乱状況を描いていても、ずっと惹きつけられるのだろう。邦題が上手い。
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