判決、ふたつの希望の映画専門家レビュー一覧

判決、ふたつの希望

第90回アカデミー賞で、レバノン史上初となる外国語映画賞にノミネートされた社会派ドラマ。人種も宗教も異なるふたりの男性の間に起きた些細な口論。ある侮辱的な言動をきっかけに裁判沙汰となり、メディア報道は過熱、国家を揺るがす騒乱にまで発展していく。監督・脚本を手がけたレバノン出身のジアド・ドゥエイリは、クエンティン・タランティーノ監督のアシスタント・カメラマンという経歴を持ち、本作が長編4作目。第74回ベネチア国際映画祭で、パレスチナ難民のヤーセルを演じたカメル・エル=バシャが最優秀男優賞を受賞した。
  • 批評家、映像作家

    金子遊

    パレスチナやヨルダンで難民キャンプを訪問したが、ナクバから70年も経つと難民生活が定着し、都市の一部になっていた。本作で描かれるように、レバノンのパレスチナ難民が国籍を持たないがために、安価な労働力として使われたり、雇用主の都合で解雇されたりということは如何にもありそうだ。ふたりの男の諍いに端を発する法廷ドラマにしつつ、現代的な右派のヘイト・クライムの主題や、知られざる虐殺の歴史を提示するところなど、社会を多角的に切りとる手腕にうならされる。

  • 映画評論家

    きさらぎ尚

    発端は、排水管工事をめぐるパレスチナ人とレバノン人の諍いだが、舞台が中東レバノンなので、片方が正しくもう片方が間違っているといったレベルの話に収まらないと予測。案の定、全国民が注目する事態に発展。難民VS地元民のこの裁判劇があぶり出すのは、実は国が抱える政治や民族など、過去からの問題。映画が優れて特徴的なのは、国は難民問題に忙殺され、地元民、つまり国内問題の犠牲者に手が回しきれていないという視点。政治が招いた人の分断、国の実情。この裁判を忘れまい。

  • 映画系文筆業

    奈々村久生

    序盤のつかみが上手い。事の発端となる些細な諍いの見せ方が秀逸で、ご近所トラブルから大事件に発展するような三面記事的な展開は日本社会にも容易く置き換えられ、実にリアリティがある。そこに民族的な背景を絡めたシナリオもいい。しかしそこはタランティーノ組出身の監督だけあってただの社会派では終わらない。大衆やメディアを巻き込んで大風呂敷を広げ、法廷劇もダイナミックなカメラワークで見せる見せる! ただ、ややエンタメに寄りすぎて結末のご都合主義感は否めない。

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