枝葉のことの映画専門家レビュー一覧
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評論家
上野昻志
「蝶の眠り」の滑らかさとは真逆のザラザラ感で際立つ。監督自ら演じる主役の顔からしてそう(失礼!)。だが、私小説ならぬ私映画というものがあるとしたら、本作こそ、まさにそれだ。誤解してはいけないが、自分の撮りたいモノを撮って満足する類の自主映画ではない。この私=主人公は、徹底して対象化されており、この男はいったい何を考えているのかと、その言葉や動きに眼が離せなくなるからだ。ただ、狙いではないだろうが、手持ちカメラの揺れが気になった。とくに前半。
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映画評論家
上島春彦
これを評価するポイントがあるとしたら、最後に罵倒される人物が主人公の本当の父親であるということ。私小説と同じ意味で私映画なのである。それを知ったのは資料を読んだからだが、ネタバレというより、コンセプトを知って見た方がずっと面白いので書いてしまう。だからと言って何もかもが事実じゃないだろうが。ここでは罵倒も愛であり、特定の人物以外に向ける主人公の過剰ないらだちもそう思えば許せる感じになる。虚実皮膜というけれど、もっと虚を強調できたら良かったのに。
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映画評論家
吉田伊知郎
枝葉は描かれるが幹は見え隠れするだけなので、空疎な中身を隠した枝葉のみの映画と混同しそうになるが、抜け出せない穴の中の閉塞感を充実した細部の描写で見せ、緊張感が途切れない。二ノ宮の無表情が良いが、歩く姿が特に際立つ。「その男、凶暴につき」以来の歩くだけで映画になる男だ。監督の自作自演によって映画の中で実人生を生き、飯を食い、酒を飲む姿までも惚れ惚れと眺めさせる。木村知貴らインディペンデント映画に欠かせない顔ぶれもいつもより突出させる演出を堪能。
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