教誨師の映画専門家レビュー一覧

教誨師

2018年に急逝した大杉蓮が初プロデュースした最後の主演作。6人の死刑囚と面会する教誨師の佐伯。死刑囚たちは彼に真剣に思いを吐露する者もいれば、くだらない話に終始する者もいる。佐伯は彼らに寄り添いながらも葛藤し、自らの人生と向き合っていく。出演は、「羊と鋼の森」の光石研、「祈りの幕が下りる時」の烏丸せつこ、「クソ野郎と美しき世界」の古舘寛治、劇団柿喰う客の玉置玲央、「インスタント沼」の五頭岳夫、「まだ楽園」の小川登。監督は、「ランニング・オブ・エンプティ」の佐向大。
  • 評論家

    上野昻志

    大杉漣のプロデュース・主演作であり、また遺作となった映画である。なぜ、彼がこのような題材を選んだのかは知る由もない。ただ、密室で人と人が一対一で向き合い、言葉を交わすということに、映画や演劇のプリミティブなありようを具現しようとしたのかもしれない。しかも相手は、死刑を宣告された存在である。そこには、失語者のような者もいれば、やたら饒舌な者もいる。それにどう対応していくか、大杉漣は、自身の俳優としての原点を見定め、次に踏み出そうとしていたように思う。

  • 映画評論家

    上島春彦

    教誨師という存在は映画「絞死刑」で見たことがあったが、処刑の場でなくこういう日常業務を追うのは珍しい。オムニバスだと思っていたらあっさり裏切られ、しかしその裏切られ方自体が魅惑的な体験となっている。彼を使って処刑の延期を画策する者、想像上の看守をこしらえ彼に報告する者など、キャラクター一人一人に物語的仕掛けが凝らされ、それらが会話主体でありながらふっと映像的に昇華されるのが圧巻。スタンダードサイズが効いているが、途中でワイド画面になるのも面白い。

  • 映画評論家

    吉田伊知郎

    死刑囚バイプレーヤーズと、主役として受けに徹する大杉の名演を見るだけで満足。スタンダードとビスタを使い分けたり幽霊を出したりするが、映像にはどうにも荘重さが不足。そうしたマイナスを芝居でプラスに転じさせ、悔悟、感動、涙といった要素を排除し、死刑囚たちが教誨師と過ごす暇つぶしだけで成立させてしまう。妙にリアルな囚人顔を作る古舘も良いが、映画初出演の玉置玲央の繊細で奔放な演技に驚く。惜しまれつつ去っていく俳優と、未知の俳優の登場に哀しみつつ喜ぶ。

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