初恋 お父さん、チビがいなくなりましたの映画専門家レビュー一覧
初恋 お父さん、チビがいなくなりました
長年連れ添った夫婦の秘めた想いと愛を描いた西炯子による人気漫画を実写映画化。人生の晩年を猫のチビと共に暮らす老夫婦の勝と有喜子。ある想いと寂しさをずっと抱えてきた有喜子は、ある日、娘に離婚話を切り出すが、そんな時、チビが突然姿を消してしまう。出演は「男はつらいよ」シリーズの倍賞千恵子、「龍三と七人の子分たち」の藤竜也、「シン・ゴジラ」の市川実日子。監督は「破門 ふたりのヤクビョーガミ」小林聖太郎。
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評論家
上野昻志
話し相手は、黒猫のチビしかいない。そんな孤独な老女を演じる倍賞千恵子さんが素敵! 彼女を見ているうちに、ふと、「みな殺しの霊歌」の孤独な少女を想い出す。賑やかな家族に囲まれたさくらより。それに対して、家では、風呂、飯、寝るとしか言わない団塊世代の男のなれの果てを演じる藤竜也の亭主は、設定とはいえ、かなり分が悪い。最終的に、無神経ではなく、たんに自分の気持を伝えられない不器用な男だったとわかるのだが、そこに到るまでの微妙なニュアンスが欲しかった。
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映画評論家
上島春彦
画面サイズと色調の変化で映画史をたどる感じが楽しい。人物の入れ替わりを身振りの同調で納得させる演出も上手い。韓流スターそっくりの若者の件もいい。だが肝心の部分が説明不足。旦那さんは何故、奥さんのかつての同僚とお茶を飲む仲になったのか、その現場をどうして奥さんは見てしまったのか。星由里子さんの都合で撮影できなかったのか、謎だ。チビが死期を悟って自分から消えたのだ、と勘違いする藤竜也が鍵なのだが構成が今一つ。彼の体調不良を最初から押し出すべきだった。
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映画評論家
吉田伊知郎
松竹・日活・東宝と言いたくなる俳優たちを揃えつつ、そこに充足した回顧的な老人映画ではなく、現代に相応しい老々夫婦の映画になっている。猫の行方不明を軸に老年夫婦のちょっとした危機を淡々と描く無駄な描写のないシンプルな作りが心地いい。インディペンデント映画では先輩格の藤竜也の方が柔軟自在に演じ、倍賞千恵子は撮影所的演技が目立つが声の良さはやはり魅了される。雨の中を走り、猫を探すという晩年の黒澤明的描写を小林聖太郎が軽やかに撮っているのが好ましい。
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