世界で一番ゴッホを描いた男の映画専門家レビュー一覧
世界で一番ゴッホを描いた男
中国・深圳市近郊にある、世界市場の6割もの複製油画を生産する大芬油画村を取り上げたドキュメンタリー。この街で20年間ゴッホの複製画を描いてきた趙小勇。ゴッホに魅せられその複製画制作に人生を捧げ、いつか本物のゴッホ作品を見たいと願う彼を追う。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2017長編コンペティション部門にて上映(映画祭タイトル「中国のゴッホ」)、監督賞を受賞。劇場公開に先駆け、特集『カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2018』クロージング作品としてプレミア上映。
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ライター
石村加奈
ゴッホは、アルルの太陽やひまわりの光り輝く黄色を「薄い金色のレモン」と称え、くりかえしひまわりを描いたという。はるか中国で20年も土産物用に「ひまわり」の複製画を描き続けた主人公が、ファン・ゴッホ美術館で本物の「ひまわり」を観た時の表情が印象的だ。絵画の前でひとり立ち尽くした彼は、泣きそうな目をして「色が違うな」とひとりごちる。旅の間じゅう職人と芸術家の違いを寝ずに考え、やがてある結論に達した主人公の、生気に満ちた目が幸せそうで、嬉しくなった。
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映像演出、映画評論
荻野洋一
深?市内の複製画制作の集積地でロケされ、一見すると子ども服製造の労働実態を描いた王兵「苦い銭」の二匹目の泥鰌狙いとしか思えず、最初は突き放した視線を送った。複製画は贋作と違って合法ビジネスだが所詮まやかしだ。ところがやがて、主人公のゴッホに対する拘泥の尋常でない熱さに胸を打たれる自分がいる。彼らの商売がパチモンだと嗤うのはたやすい。では私たちの日々の経済活動がパチモンでないと言えるのか。カメラは彼らだけでなく、私たち自身にも向けられている。
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脚本家
北里宇一郎
有名画家の複製画だらけの街。そこから一人の画工をピックアップしてゴッホの生地に行かせた。この着想がよくて。中国の地方都市から一歩も外に出たことのない中年男。オランダの落ち着いた街の風情に唸る。複製画ビジネスの裏を知って驚く。それよりも本物のゴッホの作品を見た、その時の眼差し。そこに汚濁の水から何か清らかなものが掬いとられた、そんな感動があって。全体、少しきれいにまとめすぎの感も。が、すべての芸術は模倣からはじまる、それがピタリ胸にくる拾い物作。
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