モアナ 南海の歓喜の映画専門家レビュー一覧

モアナ 南海の歓喜

    「極北の怪異」“Nanook of the North”の製作者たる英国地誌学会々員ロバート・フラハティ氏とその妻フランセス・ハバード・フラティー女史とが共同で監督、ニュージーランドの委任統治区域たる英領サモア島に於いて、原住民の生活をカメラに収めた実録サイレント映画「モアナ」のサウンド版。「モアナ」製作から50年以上の時を経て同作に音声を加えるため娘モニカ・フラハティが同島を再訪し、「モアナ」に出演した現地住民のの協力を得て、1980年に完成した。2014年にサウンド版のデジタル復元版が完成。日本では第18回東京フィルメックスにて上映(映画祭タイトル「モアナ(サウンド版)」)後、2018年9月15日より劇場公開。
    • ライター

      石村加奈

      90年以上も前の(!)フィルムには、南太平洋サモア諸島で暮らすルペンガ一家の日常がノスタルジックに記されている。長男モアナの結婚式に向けて、踊りやタトゥー、ポリネシア民族の歴史に裏打ちされた儀式のひとつひとつに敬意を払い、厳かに取り組む島の人々の姿は、観ているだけで清らかな気持ちになる。美しい島で、モアナ兄弟らが器用にカニやカメを捕らえながら、どんな会話をしていたのか、と自由に想像するのも愉しい。半世紀後に付け加えた音も映像とぴったりで驚かされる。

    • 映像演出、映画評論

      荻野洋一

      デジタル復元の意義深さをいつにも増して痛感させる超傑作。タロイモ採りに励む男たちを俯瞰でとらえた冒頭から映画の奇跡が充満し、空中でヤシの実を採る少年、後半の婚礼ダンスに至るまで、全カットが期せずして映画芸術そのものを祝福する。そしてなんといってもサウンド版だ。無声オリジナル版から50年後、フラハティの娘モニカの陣頭指揮で録音されたもの。島を再訪し、現地の人にリップシンクするよう話してもらい、歌ってもらったのだという。その労力に驚嘆する。

    • 脚本家

      北里宇一郎

      あの時代に重い機材を担いで、未開の島で撮影する。その開拓精神に敬意を表する。中身も当時の島民の生活を初めて世界に紹介――の喜びにあふれて。ただ、南海映画に旨いものなしというかつての米映画のジンクス同様、ちとノンビリしすぎの感も。大氷原が舞台の「極北の怪異」の緊張とスリルがないのは残念。と思ってたら、最後の刺青を彫る場面でびっくり。サウンド版にしたのは、この音を聴かせたかったためなのか、と思わせるほど効果抜群。主人公の彼女がチャーミングなのも眼福。

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