アルキメデスの大戦の映画専門家レビュー一覧
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映画評論家
北川れい子
冒頭いきなり、VFXを駆使した映像で巨大戦艦“大和”の断末魔を5分余にわたってスペクタクルに再現、荒業級のこの構成にはかなり驚く。“大和”は死んでも“日本”は死なず、っていうことか。とは言え、数字で戦艦の建造を阻止すべく孤軍奮闘する数学者の行動をここまで面白く描きながら、最後に、詭弁に近い田中泯のことばでうっちゃりを喰らわすとは、えーっ!! 数字はウソをつかないが口癖の菅田将暉の演技は絶好調だし、娯楽映画として上出来だが、どこかキナ臭さもプーン。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
“なんとなく右翼”(『なんとなくクリスタル』の語感で)かと思っていた山崎貴監督の好ましい転向とも見える体制批判。VFXの質はハリウッドに遜色ない。『人間の條件』主人公の梶や『神聖喜劇』の東堂太郎から現代ウケを狙ってか左翼性だけを引き算したような優れた知性が敗戦の必至を見抜き戦艦大和建造を阻もうとする原作漫画の設定がまず面白い。その道理が大波に飲まれたことはそれら文芸過去作では体験からの再話だが本作ラストが監督自身の今後の行路の予見なら怖い。
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映画評論家
松崎健夫
「数学で戦争を止めようとする男」が主人公ゆえ難解な数式が数多登場する。しかし、実際の数式や数値自体は、この映画にとって然程重要ではない。数式が導く数値によって生まれる、登場人物の“感情”が重要なのだ。以前から感じていたことだが、菅田将暉の台詞は“入ってくる”。それは、頭に入って来たものが胸の辺りまで下りて来る感じなのだ。彼の言葉には独特の抑揚やスピード、言葉を強調するポイントがある。そのコントロールが、数式や数値を超えた感情を引き出している。
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