ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこその映画専門家レビュー一覧
ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ
第28回東京国際映画祭で上映された巨匠フレデリック・ワイズマンの第40作目となるドキュメンタリー。ニューヨークの町ジャクソンハイツは、世界中からの移民とその子孫が暮らしている。町のあらゆる場所、あらゆる人にカメラを向け、町の真実を映し出す。
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ライター
石村加奈
アメリカ人のおばさんにとって、アメリカにおける民主主義と基本的人権との違いは明快だが、だからと言って母国語がベンガル語のおばさんの意見を否定したりはしない。167の言語が飛び交う町で暮らすには宗教、食事、音楽等が象徴する、それぞれの文化を尊重する寛容さが必要なのだ(これぞ自由の国!)。年齢も出身もさまざまな人たちのおしゃべりを聞くうちに心がまあるくなっていく。一方で主体性の重要さもそっと説く。住民の知らぬところで町が変わる恐怖は他人事ではない。
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映像演出、映画評論
荻野洋一
およそ観光とはかけ離れた陋巷に分け入るエイリアンの五官を、観客は獲得するだろう。引率者たるワイズマンは何も説明してくれない。駅名や道路標識のわずかな示唆や集会の様子から、私たちはこの地区の生のありようを学ぶ。そうしないと、単なる幽霊になってしまいそうだ。NYは「人種の坩堝」とはよく言われるが、マンハッタンでもハーレムでもなく、クイーンズ地区のこの地味な陋巷が「ここがなくなればNYはNYでなくなる」とまで宣言する。パワー漲る3時間超。
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脚本家
北里宇一郎
ふらりと見知らぬ街に滞在する。日を追うごとに、いろんな人と知り合いになる。顔なじみが増える。居心地がよくなる。このドキュメンタリーには、そんな肩の力が抜けた、飾らぬよさがあって。多彩な人種がいて、ゲイが自由に闊歩して、個人経営の露店が町角を賑わす。もうアメリカ、その民主主義のいいとこがいっぱいに匂う。だけどここにも開発の波が押し寄せ、映画に写ったこの風景がやがて消滅の予感。だからこそのこの住民たち、街の記録。それがさらりと描かれ、切なさが響く。
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