ぼけますから、よろしくお願いします。の映画専門家レビュー一覧
ぼけますから、よろしくお願いします。
数々のテレビドキュメンタリーを手がけてきた信友直子監督が、自らの両親の老老介護を娘である「私」の視点から丹念に見つめる劇場映画初監督作。2014年、80代後半の母がアルツハイマー型認知症と診断され、90歳を超えた父が母の介護をする日々が始まった……。プロデューサーは「園子温という生きもの」の大島新と「放送禁止 劇場版 密着68日 復讐執行人」の濱潤。撮影・ナレーションを信友直子監督が兼任する。
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評論家
上野昻志
人は、老いたときに、持って生まれた資質や、それまでの暮らしの中で培ってきたものが、はっきりと現れるのではないかと改めて思う。認知症の母は、ヘルパーが風呂場の掃除を始めると、自分も手を出そうとする。そこに、それまで家事の一切をやってきた彼女の矜持がある。そのことに胸をうたれる。また、そのような妻の姿を自然に受け止め、自分で買い物をし、食事の支度をする夫の姿に、果たして自分はどうかと問われる思いがする。なんとも素敵な老夫婦と、それを捉えたカメラに脱帽!
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映画評論家
上島春彦
アルツハイマー型認知症になった母親と介護を支えるその夫を娘の映像作家が撮る。良さは身内が取材することで家族史になっているところ。三人家族それぞれの生き方や趣味が、過去に撮影された映像を交えて語られ、その中には乳癌治療の放射線で毛が抜けてしまう真っ最中の作家自らの映像も含まれる。セルフ・ドキュメンタリーは苦手な私だが、これくらい理性的、自制的な作りだと感服する。タイトルから分かるように、家族には未来がある。病者、介護者、地域医療のあり方が見える。
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映画評論家
吉田伊知郎
TVディレクターの娘が両親を撮っただけに距離が近く、内外での表情の違いを含め老いと共生する姿を露悪的にならずに映し出す。洗濯物の上に寝転がる母の上を乗り越えてトイレに行く父といったカットは撮影者との距離が近くないと撮れまい。温厚な父がある瞬間に母を叱責する際の「仁義なき戦い」的な方言の活用が実に映画的な魅力を増すが、覚束ない足取りで生活する両親を引いて撮り続ける娘が思わずカメラを置いたり、フレームの外から手を貸したくなる瞬間も観てみたかった。
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