ヒューマン・フロー 大地漂流の映画専門家レビュー一覧
ヒューマン・フロー 大地漂流
芸術家として活躍する一方、人権活動にも尽力する中国のアイ・ウェイウェイが監督を務め、世界的な問題である難民の現状に迫るドキュメンタリー。23カ国を超える難民キャンプでインタビューを敢行。様々な理由で増加し続ける難民を数年に渡って取材した。アイ・ウェイウェイは、2008年北京オリンピックの“鳥の巣スタジアム”をデザインする一方で、四川大地震での当局の責任を追及し、2010年に北京の自宅で軟禁されるなど、体制に迎合しない姿勢で存在感を発揮している。
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ライター
石村加奈
青い海、白い砂、オレンジのライフジャケットの山、コントラストの美しい映像は、現代美術家ならではだろう。ドローンで空撮した、トルコの街を縦横に貫く道が、十字架のように見えて、印象的だった。ドローンやスマートフォンを自在に使いわけ、6500万人もの難民たちの苦しみや哀しみの先に見える、地球規模の深刻な問題を印象づけている。世界に忘れられたガザの暮らしが嫌いではないと笑う少女をはじめ邪気のない子供たちの笑顔は、学校にも行けぬ難民生活の危機感を強調する。
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映像演出、映画評論
荻野洋一
40カ所もの難民キャンプや国境地帯でロケされ、あたかも〈難民大図鑑〉のごとし。チャプター区切りとしてドローンによる俯瞰が多用されるのは、流行の後追いではと疑問を感じた。しかし地上では違う。艾未未は、世界各地で出会う人々に俯瞰ではなく同じ目線で語りかける。大したやり取りはない。ただリスペクトを表明し続ける。そんな風に夥しい数の場所が写され、地球がもはや〈難民惑星〉だとさえ思えてくる。そして艾未未自身も行き先なき亡命者として漂流しているのだ。
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脚本家
北里宇一郎
中国から追放されたアイ・ウェイウェイが難民を見つめる。時に彼らの中に入って交流する。中東の、欧州の、アジアの、世界中の。彼らがなぜ難民にならざるを得なかったか。それは問わない。黙っていても、その気持ちは伝わるとばかりに、彼らの顔を、姿を捉えていく。撮影が凄く美しい。これはアーティストが作ったドキュメントだと思った。美しいがゆえに残酷さも引き立っていた。だけどここで必要なのは、ジャーナリスティックな視点じゃないかとも。いま、何が起きてるかは分かるけど。
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