We Margiela マルジェラと私たちの映画専門家レビュー一覧
We Margiela マルジェラと私たち
2008年に表舞台から姿を消したデザイナー、マルタン・マルジェラの秘密に迫るドキュメンタリー。顔を見せず、インタビューは書面のみで、「私」ではなく「私たち」と答えるファッション業界の異端児の真実を、数々のアーカイブと証言から浮き彫りにする。
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ライター
石村加奈
マルタン・マルジェラが表舞台から姿を消して10年。共にブランドを立ち上げたジェニー・メイレンスの協力を得て、ファッション界のトマス・ピンチョンか? などと囁かれた彼の素顔に迫る。タグ代わりの端布をはじめ、白が象徴する世界を守ってきた初期スタッフたちの言葉は情熱的だ。「自分の気持ちを胸に秘めてる感じよ」「謎にはふれないでおくべき」……マルタンについて恋する乙女の如く話す姿から、彼が愛されていたと知る。愛が饒舌な分、チーム空中分解の謎=沈黙は深い。
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映像演出、映画評論
荻野洋一
メゾン・マルジェラのトレードマークは、タグの四隅に縫い付けられた白糸だ。つまり、すぐにでも本体から?脱し、署名を喪失する可能性を示唆する。事実、ここにはデザイナー本人は不在で、主人公がワンカットも映らないという稀有な映画となった。スタッフ集合写真の真ん中に穿たれた空っぽの座席。服だけが残る。作者の消滅。これは日本絵画史で言うところの「誰が袖」だろう。着物が衣紋掛けに脱ぎ捨てられた無人ショット。かつて在ったものの痕跡を探すスリリングな体験だ。
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脚本家
北里宇一郎
またしてもファッション業界のドキュメントかと、こちらは少しユーウツになる。例によってカリスマ・デザイナーの功績とかキャラを周囲の関係者がコメントしていく。だけど主役は顔出ししない。一番身近にいる相棒の女性もそう。その謎が後半になるに従って明らかになる。この構成が効いて。やりたいことを続けたいという作家の感性。メジャーになると商品化が偏重されるビジネスの論理。そんな作り手の世界、その普遍性が浮かびあがって。最後にこの映画題名の切なさが沁みてくる。
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