おっさんのケーフェイの映画専門家レビュー一覧
おっさんのケーフェイ
第13回CO2の助成企画として道頓堀プロレスの全面協力を得て完成した人間ドラマ。11歳のヒロトは将来の夢もなく、冴えない日々を過ごしていた。そんなある日、たまたま入ったプロレス会場で人気レスラーの引退試合を観戦し、今までにない興奮を覚える。フェイクドキュメンタリー「あの娘はサブカルチャーが好き」の谷口恒平による長編デビュー作。出演は、「菊とギロチン」の川瀬陽太、「いつまた、君と 何日君再来」の松田優佑。第12回大阪アジアン映画祭インディ・フォーラム部門、第17回ニッポン・コネクションニッポンヴィジョンズ部門、カナザワ映画祭2017期待の新人監督部門、第18回TAMA NEW WAVEある視点部門上映作品。
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映画評論家
北川れい子
山椒は小粒でもピリリと辛い、ということばがぴったりの、ハートフル&ハードボイルドの会心作。手作り風のダッチワイフ相手にプロレスの練習をしているおっさんと、プロレスに目覚めた少年の真向勝負。いや、闘うのは少年ではないが、おっさんの真実を知った少年と仲間たちが仕掛ける終盤のエピソ―ドには思わず拍手。おっさんが母親から貰った小遣いで通う風俗店・JKプロレスのくだりもくすぐったい。敵はリングの外にあり、という台詞も効果的。谷口恒平監督、頼もしい新人だ。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
川瀬陽太はもはや現代において人間存在のエルドラドのような役者になった。その夢見られる秘境の宝はマネーやゴールドではない。臭そうなおっさんが他の登場人物と観客に渡すのは自由とそれぞれの価値観を信ぜよという無形の黄金。本作は誤解による少年からの英雄視→なりすましをさらにひねった後、無用の人間の英雄以上に英雄的な立ち上がりかたを見せたのが良い。それは映る人物全員がいい顔をしてることに繋がる。あとチャラいダンスの五万倍はプロレスがかっこいいのも良い。
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映画評論家
松崎健夫
幼少期の僕は、某特撮番組の主人公の瞳が父にとても似ていたことから「もしかすると正体はお父さんかも知れない」と妄想を膨らませていた。そこには「番組を放映している時は必ず父が不在」という餓鬼なりの裏付けがあったのだ。虚構と現実の境界線が理解できなかった過日、己の周囲に存在する世界も限られ、目の前にある情報と情報を結びつけることでしか“虚構と現実の境界線が曖昧な現実”を導けなかったのだ。本作ではその境界線としてプロレスを機能させている点が素晴らしい。
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