人間失格 太宰治と3人の女たちの映画専門家レビュー一覧

人間失格 太宰治と3人の女たち

太宰治による小説『人間失格』誕生の背景を、「Diner ダイナー」の蜷川実花監督が事実を下地にフィクションで活写。酒と恋に溺れ自堕落な生活を送る作家・太宰治は、夫の才能を信じる妻の美知子に叱咤され、ついに自分にしか書けない物語に取りかかるが……。突飛な言動と奔放な私生活ながら圧倒的な人気と才能で女を惹きつける太宰治を小栗旬が、太宰の正妻・美知子を宮沢りえが、太宰の愛人である作家志望の静子と未亡人の富栄をそれぞれ沢尻エリカと二階堂ふみが演じ、太宰治の恋と生涯を色鮮やかに描く。
  • 映画評論家

    川口敦子

    なんだか外国人監督、例えば乱調の美学のK・ラッセルが撮った太宰の伝記映画みたいな世界の徹底的に自分流の創り上げ方、そのくせ津軽の寺の地獄絵のおどろおどろしさも射抜くような意匠はいっそありかもと違和感が蹴散らされる。という意味で監督蜷川の力は無視し難い。おまけにラッセルの伝記映画同様、押さえるべき事実は疎かにしていない。脚本早船の力もここで感知される。が、女性像となると比べる科を自認しつつもやはり田中陽造版「ヴィヨンの妻」の悲しさを懐かしんだ。

  • 編集者、ライター

    佐野亨

    最後にクレジットされるとおり、これは太宰の実人生に想を得たフィクションなのだが、『人間失格』を到達点にさだめると、紋切り型の「無頼」「破滅」「ナルシシズム」が前景化するばかりで、陳腐な話にしかならない(この作品に限らないが、なぜ『グッド・バイ』を軽んじるのか)。「女性から見た太宰を描く」というねらいのわりに、三人の女性もまた物語上の要請に従って動くだけの空疎な存在になってしまっている。極めつけは三島由紀夫との対面シーン。あれじゃただの駄々っ子だ。

  • 詩人、映画監督

    福間健二

    男性一人対女性二人ではもう劇が成立しにくいのは方々で気づかれているが、では対三人はどうなのか。実は時代の変化以前のところで、三人の女優が十分に力を発揮しきれないということがある。これはそうだ。他の面でも飽食的に余る感じのものが。そのひとつである色彩表現を別にすれば、「さくらん」以来、蜷川監督は半世紀前の優秀な男性監督のやりたがったことをやっていると思う。そのことも、軽みと甘さよりもシリアスさが勝つ気配の小栗旬の太宰治も、新味があるかは微妙だ。

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