ナディアの誓い On Her Shouldersの映画専門家レビュー一覧

ナディアの誓い On Her Shoulders

自らの過酷な体験に基づいて世界中にISISの非道を訴え、ノーベル平和賞2018を受賞した23歳の女性ナディア・ムラドの活動を追ったドキュメンタリー。イラク北部の小さな村で家族と幸せに暮らしていたナディアの人生は、ISISの出現で一変する。監督は、これまで数々のドキュメンタリーを手掛けてきたアレクサンドリア・ボンバッハ。
  • ライター

    石村加奈

    少年たちが海ではしゃぐシーンの後に、哀しい歌を切々とうたう少年のシーンが続く。光と影の二面性をまだ薄い肩に背負わされた、あの年頃の子供の苦しみに思いを馳せれば、ナディアの覚悟はまさに“決死”だろう。彼女のそばにムラド氏がいてくれてよかったと心底思う。ドキュメンタリーゆえに如何ともしがたいが、気になったのはアマル弁護士のファッション(リアルとはそういうものか、とも)。しかしそれ以上に、冒頭のナディアを囲んで写真を撮る男たちの異様な画の意図が知りたい。

  • 映像演出、映画評論

    荻野洋一

    ISによる虐殺と女性の性奴隷化を告発する、すさまじい訴求力を持ったドキュメンタリーだ。構成は簡単で、被害者代表として起ち上がった女性が国連への働きかけに至るひと夏を追うだけだが、この短いスパンにしてこの密度に、見る者は粛然とさせられるだろう。「難民救済基金を起ち上げて援助活動をしよう」という者の提案を、元国際司法検事が「未来を見据えよ」と当座の救済策を否定するシーンは、作品の最も緊迫した局面だ。親密な食事を囲みながらそんな会話がある。

  • 脚本家

    北里宇一郎

    「バハールの涙」の女たちの武器は銃。ナディアの武器は言葉。ISISの迫害を受けたヤジディ教徒。その虐殺と性被害の実状を訴え続ける。が、事態はなかなか変わらない。人々の反応も様々で。キャメラは失望、焦燥、疲労した彼女の表情も捉えていく。その心の内に入るように。数年ぶりに故郷に帰ったナディア。泣き叫ぶ彼女の顔をちらり見せただけで、そこをクライマックスにしなかった。ここに監督の意志を感じて。闘いは続く。現実の記録を重ねて、一人の女性の不屈の精神を刻み込む。

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