カニバ/パリ人肉事件38年目の真実の映画専門家レビュー一覧

カニバ/パリ人肉事件38年目の真実

    1981年にフランスで起きた猟奇殺人事件「パリ人肉事件」の犯人・佐川一政に密着したドキュメタリー。幼い頃のホームムービーや、帰国後に描いた漫画を交えながら、幼少期の思い出や事件の詳細が語られ、彼の心の根幹にあるカニバリズムが浮き彫りになっていく。出演は、佐川一政、彼の実弟である佐川純、「ナース夏子の熱い夏」の里見瑶子。監督・製作・撮影・編集を「リヴァイアサン」のルーシァン・キャステーヌ=テイラーとヴェレナ・パラヴェルが手がける。第74回ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門審査員特別賞受賞作。
    • ライター

      石村加奈

      確信犯的映像に導かれて、チョコレートを食む男の口元なぞに見入っていると、一体何を観ようとしていたのか? と危うい心持ちになるが、本作の主人公を、佐川一政氏と双子のように育った弟と捉えて、タイトルの意味を考えれば、他人=兄をネタに飯を食うということか。かような視点から、ラストの一政氏を「奇跡」とは到底思えぬわいと見据えるうち、ピンぼけのカメラが捕らえようとしていたのは、卑猥な好奇で心を満たそうとする38年目のカニバ的観客だったのでは!? と戦慄した次第。

    • 映像演出、映画評論

      荻野洋一

      本作の被写体が映画の被写体に値するのかは措いておくとする。人物を真面目に捉えようという意志ゼロのカメラは、思わせぶりにピンぼけ画面へと、肌の凹凸も露わな超クロースアップへとスタイル化させ、この輪郭を欠いた画面の背後には何事かがあるんだぞと凄んで見せる。監督2人組はハーヴァード大学感覚民族誌学研究所のメンバーで、世界に冠たる最高学府のエリートだ。そのエリートが雁首揃えて何をやっているのか。前作「リヴァイアサン」で生じた疑念が今回、確信へと達した。

    • 脚本家

      北里宇一郎

      佐川氏は孤独だ。なぜそうなったかは自覚している。闇の中で暮らしている。弟が寄り添っている。自分しか兄の面倒を見る人間がいないから。切ない。だけどこの弟にも満たされぬ想いがあって、特殊な性癖が。苦しい。佐川氏は最後に(監督から)女性をあてがわれる。まるでご褒美のように。久しぶりに他者から人間扱いされて佐川氏は生気を蘇らせる。終始、ごろんと放置したようなキャメラ・アイ。あの奇矯な「リヴァイアサン」の監督か。なるほど。無機質な観察者の眼だ。肌に合わない。

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