聖なる泉の少女の映画専門家レビュー一覧

聖なる泉の少女

ジョージアのアチャラ地域に口承で伝わる物語を基にし、2018年アカデミー賞外国語映画賞ジョージア代表作品に選出された人間ドラマ。人々の心身を癒してきた聖なる泉を守る一家。老いた父は娘ナメに務めを継がせようとしナメが思い悩む中、泉に異変が起きる。監督は、本作の舞台となったジョージアのアチャラ地方にある都市に生まれ、映画制作の一方でバトゥミ芸術大学で教鞭を執るザザ・ハルヴァシ。第30回東京国際映画祭コンペティション部門正式出品作品(映画祭題「泉の少女ナーメ」)。
  • 映画評論家

    小野寺系

    泉に閉じ込められた魚に重ね合わされた、ジョージアの寒村の因習に縛られる少女。彼女の抱いている脱出願望と、常にあらゆるかたちで顔を見せる“近代化への後ろめたさ”が生じさせる軋轢が、近代文学的対立構造を生み出し、長回しで自然や室内を切り取った映像群をまとめあげている。ここで問題となっているグローバルな先進性とローカルな固有性の間の葛藤というのは、芸術映画における分裂的傾向をも表出させてしまっていて、物語を超えたところで興味深い作品だともいえる。

  • 映画評論家

    きさらぎ尚

    映像の美しさに引き込まれた映画の始まりだったが、物語のあまりの深さ・豊かさ・鋭さに圧倒された。トルコと国境を接する村の民間伝承でストーリーを編んだこの映画は、人と自然との交感、あるいは人と信仰や物質文明の関係を描き、人が築いてきた万物との関係が壊れていく現代の世界に警鐘を鳴らす。けれどその鐘の音はんで控えめ。セリフも説明を排して最小限。なので「絶対の静寂を映像で表現できないものか」と思ったと語る監督の意図を見逃さないようにすべし。集中の至福。

  • 映画監督、脚本家

    城定秀夫

    画の美しさで最後まで観せ切る映画で、多くのカットは宗教画が動いている様な神々しさだし、少女の佇まいはフェルメールの絵みたいだし、水や火や霧や霞の描出は見事だし、ラストでは見たことない奇跡的な画を捉えているのだけれど、普通に生きたいと願う少女が呪縛から逃れようとするという物語や、神話と文明というテーマは睡魔を召喚させる程に薄味で、もうちょっとだけお話を面白くしてもいいのになあと思ったのは、まあ、自分の好みの問題で、とても気高い映画だとは思う。

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