山懐(やまふところ)に抱かれての映画専門家レビュー一覧
山懐(やまふところ)に抱かれて
岩手県の山あいで、酪農を営む大家族の24年を追いかけたドキュメンタリー。自らの手で山に牧場を切り拓き、四季を通じて牛を完全放牧し、草だけを餌に育てる“山地酪農”に情熱を傾け実践する夫婦と7人の子どもたちの日々の成長や営み、新たな挑戦を映し出す。ナレーションを「居酒屋ゆうれい」「のど自慢」の室井滋が担当。テレビ岩手 開局50周年記念作品。
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映画評論家
北川れい子
夫婦と子ども7人の一家を20年以上も取材した記録といえば「五島のトラさん」が思い出される。うどん業のトラさんの子どもたちも幼い頃から家業を手伝っていた。が岩手の山中で酪農を営むこの一家の子どもたち7人は、両親と同等の働き手として大自然と格闘する。プレハブにランプ生活の厳しい暮らしからスタートした取材は、成長した子どもたちの離反、独立まで記録、どの子どもの生き方も応援せずにはいられない。頑固な父親の無念の涙も。地元ローカル局の丹念な取材に脱帽。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
本作を観て、かつてこの欄で紹介した長崎五島列島の大家族を二十二年間追ったテレビ長崎のドキュメンタリー「五島のトラさん」を連想。長期取材と素材の圧縮還元提示というテレビ→映画ドキュ。本作の吉塚公雄氏は理想の酪農を実現させた物心ふたつの意味での開拓者。家族を労働力としてしまった面もあるがその是非はジャッジできない。彼は子どもに人並みの娯楽を与えてやれぬと泣くが、そのようなこともなんとかやってみながら、それは本質的な子育てでもないと実感する私には。
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映画評論家
松崎健夫
石川啄木は「はたらけどはたらけど猶わが生活楽にならざり」と詠んだが、人生や暮らしは、利潤や効率だけではないのではないか? と思わせ、我が手をぢっと見るに至る。厳しい自然に不便な生活、そして資金難。なぜ人は“そこ”で暮らす必要があるのか? と疑問を抱かせながら、それでも“そこ”で生活する意味をこの映画は提示する。そして、働くことの意味を考え、大企業の論理のみに寄り添った“働き方改革”など、くそくらえ! とも思わせるのだ。悔し涙の数だけ、人は強くなる。
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