レ・ミゼラブル(2019)の映画専門家レビュー一覧

レ・ミゼラブル(2019)

第72回カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞した社会派ドラマ。小説『レ・ミゼラブル』の舞台となったパリ郊外のモンフェルメイユ。現在は犯罪多発地域となった街で、ある少年が引き起こした些細な出来事が大きな騒動へと発展し、取り返しのつかない方向に進む。監督は、本作が初長編映画監督作品となるラジ・リ。
  • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    単純な善悪は存在しない。人は歪な多面体で、集団や社会となるとさらに複雑で歪な多面体となる。劇中登場するスマホでの撮影やSNS投稿、そして要となるドローン。それらの出現により社会はさらに複雑化し、それによって社会が善い方向へ進むのか、悪い方向へ進むのか。どちらにせよ極端化するだろう。救済は決して訪れないし、奇蹟も起きない。ただ現実がそこにあるのみ。ユゴーの物語の根底には愛や改心があった。ロマンスや愛を見つけられないほど、この物語はリアルなのだ。

  • フリーライター

    藤木TDC

    とても面白い。多様な民族、宗教、ルーツの人々のコミュニティと化したパリ郊外の古びた団地を人種による分断の場と描くのではなく、折り合いながら共棲するアジール内の新たな対立に目を向けたのが画期的。肌色の違う彼らがフランスに同化済みなのは冒頭のシーンに明快で、私には理想の世界に見えたが、憎悪ではなく些細な人間的失敗から悲劇は生まれ衝撃的報復に至る。実話ベースなのに驚かされ、凱旋門に重ねたタイトル「レ・ミゼラブル」=“愚か者たち”に込めた思いが伝わる。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    スパイク・リーが絶賛というのがよくわかる傾向の作品だ。移民や貧困、宗教という問題を多角的に捉え得る中で、精神が摩耗する小競り合いや暴力のみを通して日常描写を行っていく。それぞれの立場に言い分があり平行線を辿るしかない多様さの軋轢を、どこに比重を置くでもなくありのまま活写する鋭利さ。クライマックスの、あるトリガーから自然に蠢き出す生き物のような暴動の派生は息が詰まる。社会に翻弄されながらも、そこには常に個人の判断があるというメッセージは重い。

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