お百姓さんになりたいの映画専門家レビュー一覧

お百姓さんになりたい

    「武蔵野 江戸の循環農業が息づく」の原村政樹が、自然栽培に取り組む農家の日常を追ったドキュメンタリー。農薬や除草剤、肥料すらも使わない自然栽培に取り組む埼玉県三芳町の明石農園。その営みを通じて、効率重視の現代社会に“農”の価値を問いかける。語りを務めるのは、連続テレビ小説『なつぞら』の小林綾子。
    • 映画評論家

      川口敦子

      「誰もが生き生きと暮らしていける社会を」と28歳でお百姓さんになった青年の「不揃いであることが自然の本来の姿」「人間も同じ」との信念に共感する撮り手の撮りたいという気持ちは、プレスにある「なぜ、この映画を撮ったのか」と銘打たれたノートを読むと成程と思えるのだが、映画と向き合う限り青年をみつめる目と、彼が採る方法、はたまたそこに集う人々への目とがやや漫然と連なるばかりといった印象に陥っている。核心を強調しない語り方がもひとつ機能していない点が残念だ。

    • 編集者、ライター

      佐野亨

      無肥料自然栽培に取り組む明石誠一さんを中心に、新規就農にまつわる困難や試行錯誤が丁寧にとらえられている。ことに障害をもった人々が農業に参加する様子が時間をかけて描かれる点は、作り手がなにを見せたいかが明確にあらわれていると感じた。評者のように農業に疎い人間でも、彼らの営みがグローバル化、大企業化する社会のなかで、どのような意味をもつのかを考えさせられる。日常を淡々と映しながら、芯の部分には野菜とおなじくたっぷり栄養が詰まった作品だ。

    • 詩人、映画監督

      福間健二

      農業を題材にした作品、十本目という原村監督。今回はとくに軽さを意識したのかもしれないが、農作業する人たちと同じ地面に立つというよりも横から覗き込むような画が多いのは、どうしたことか。ナレーションの甘さもあって表現に迫力がない。失敗と実験を重ねながらの「自然栽培」の農法、そのやりがいと大変さから、自然の根底にある力への敬意と驚き、障がいをもつ人の受け入れや家族で農業をすることの幸福まで、話題はあっても、世界が見えない。文句なしのおいしい食べ物も。

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