人生をしまう時間(とき)の映画専門家レビュー一覧

人生をしまう時間(とき)

家族に看取られ穏やかに亡くなっていくことを目指す『在宅死』に焦点を当てたドキュメンタリー。東大病院の名外科医・小堀鷗一郎が、最後に取り組む在宅の終末期医療現場に密着。一人ひとりの人生の終わり、様々な難問と向き合い、医療に何ができるのかを問う。監督・撮影は、ディレクター、プロデューサーとして『NHKスペシャル』などを手がけてきた下村幸子。2018年度日本医学ジャーナリスト協会賞大賞を受賞したBS1スペシャル『在宅死“死に際の医療”200日の記録」に新たなエピソードを追加、再編集を施した劇場版。
  • ライター

    須永貴子

    誰もがアクセスできるわけではない世界をカメラに収め、できるだけバイアスをかけずに整理整頓したものを観客に届け、観た人の知見が広がる、正しいドキュメンタリー。しかも、この世に生きるほぼすべての人に関係がある、「死にゆく人」と「看取る人」の在り方を巡るテーマも意義深い。長期間に及ぶ在宅介護を終えたときの、看取った人たちの十人十色の反応と数々の亡骸をじっくりと撮影していることから、取材者が取材相手から信用されていることも伝わってくる。

  • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

    山田耕大

    在宅の終末期医療の数々を映し出したドキュメンタリー。森?外の孫に当たるという小堀?一郎氏の患者とのユーモラスで暖かい丁々発止が心を打つ。在宅で死んでゆく人々への慈愛に満ちた鎮魂歌。中でも、盲目の娘を一人残して身まかる父親の死に様は崇高とすら思えた。フィクションがどんなに頑張っても絶対に勝てない現実の人々の生き様、死に様がここにある。が、テレビのドキュメンタリーを編集し直したというこの作品を映画というには、少し抵抗がある。

  • 映画評論家

    吉田広明

    在宅医療=在宅での終末期医療に携わる地方の医師二人を中心に、それを選択した患者を描く。手術を職人のようにこなしてきたが、一人一人に関心を向けたいという医師、これまで避けてきた死との向かい合いに取り組む医師。国は医療費抑制のために在宅医療を推進しているというが、そんな損得勘定抜きに、家での看取りは、本人家族共々、ちゃんと死を、死にゆく人を見つめることであり「死」を取り戻すことなのだ。本作が描くのが「日常」だということ、これが重要だ。

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