劇場の映画専門家レビュー一覧
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映画評論家
川口敦子
人が人を愛することのどうしようもない寂しさ、何者かであろうとすることのどうしようもないみじめさ、無様さ。それを芯に監督、脚本、音楽各氏が鼎の三本足然と“下北沢”感を紡ぐ。その手さばきの確かさに抵抗感山積みで眺めていた究極の半径数メートル的世界にいつしか巻き込まれていた。あくまで狭く小さく閉じた世界の苦しさと背中合わせのちっぽけな涙ぐましさ。終幕、開くことで一層それが痛感される。小劇団ものとして「マリッジ・ストーリー」と見比べても面白そう。
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編集者、ライター
佐野亨
又吉直樹の小説のことばを映画のダイアローグに昇華させた脚本・蓬莱竜太がいい仕事をしている。下北沢の町をとらえた槇憲治の撮影もわるくない。しかし、今泉力哉の諸作品などを観たあとでは、人物の動かし方にいかにも「こう感じてほしい」というたくらみが透けて見えてしまう。松岡茉優は今回も「名演」だが、彼女の涙顔と舞台上の山﨑賢人の切り返しでカタルシスを生じさせようとするラストシーンでは、ぎりぎりあった抑制も決壊してしまった。その後の無音もあざとい。
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詩人、映画監督
福間健二
落ち着きを欠くアヴァンタイトルのあと、一〇〇分ほど、松岡茉優と山﨑賢人の演技は認めたいと思いながらも腹立たしい中身に疲れきり、最後の一〇分で、ああそうやるのかとなった。行定監督、辛抱づよい。めちゃ性格のいい天使的女性と救いがたくダメな男の話。古い。つまらない文学をありがたがっているつまらない映画。そう片付けたいが、いい画もときにあり、かつ成瀬巳喜男「浮雲」やフェリーニ「道」に通じそうな悔恨と感傷を最初から滲ませるナレーション付き。始末がわるい。
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