劇場の映画専門家レビュー一覧

劇場

芸人として活躍する一方『火花』で芥川賞を受賞した又吉直樹による恋愛小説を、行定勲監督が映画化。永田が脚本・演出を手掛ける劇団は公演の度に作風を酷評され、解散状態に。理想と現実の間で苦しむ中、女優を夢見る沙希と出会い、彼女の家に転がり込む。劇作家を目指す不器用な永田と健気に彼を必死に支えようとする沙希の恋を、「ヲタクに恋は難しい」の山﨑賢人と「蜜蜂と遠雷」の松岡茉優が紡いでいく。また、シンガーソングライターの曽我部恵一が本作の音楽を手がけた。
  • 映画評論家

    川口敦子

    人が人を愛することのどうしようもない寂しさ、何者かであろうとすることのどうしようもないみじめさ、無様さ。それを芯に監督、脚本、音楽各氏が鼎の三本足然と“下北沢”感を紡ぐ。その手さばきの確かさに抵抗感山積みで眺めていた究極の半径数メートル的世界にいつしか巻き込まれていた。あくまで狭く小さく閉じた世界の苦しさと背中合わせのちっぽけな涙ぐましさ。終幕、開くことで一層それが痛感される。小劇団ものとして「マリッジ・ストーリー」と見比べても面白そう。

  • 編集者、ライター

    佐野亨

    又吉直樹の小説のことばを映画のダイアローグに昇華させた脚本・蓬莱竜太がいい仕事をしている。下北沢の町をとらえた槇憲治の撮影もわるくない。しかし、今泉力哉の諸作品などを観たあとでは、人物の動かし方にいかにも「こう感じてほしい」というたくらみが透けて見えてしまう。松岡茉優は今回も「名演」だが、彼女の涙顔と舞台上の山﨑賢人の切り返しでカタルシスを生じさせようとするラストシーンでは、ぎりぎりあった抑制も決壊してしまった。その後の無音もあざとい。

  • 詩人、映画監督

    福間健二

    落ち着きを欠くアヴァンタイトルのあと、一〇〇分ほど、松岡茉優と山﨑賢人の演技は認めたいと思いながらも腹立たしい中身に疲れきり、最後の一〇分で、ああそうやるのかとなった。行定監督、辛抱づよい。めちゃ性格のいい天使的女性と救いがたくダメな男の話。古い。つまらない文学をありがたがっているつまらない映画。そう片付けたいが、いい画もときにあり、かつ成瀬巳喜男「浮雲」やフェリーニ「道」に通じそうな悔恨と感傷を最初から滲ませるナレーション付き。始末がわるい。

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