人間の時間の映画専門家レビュー一覧

人間の時間

カンヌ・ヴェネチア・ベルリンの世界三大映画祭で受賞したキム・ギドク監督が、極限状態に陥り欲望を剥き出しにする人間たちを活写したファンタジー。様々な客を乗せ、退役した軍艦が出航。船は異次元に入り込み、人々は生き残りを賭けて事件を起こしていく。日本だけでなく韓国でも活動する藤井美菜、「きみはペット」のチャン・グンソク、韓国の国民的俳優アン・ソンギ、「悲夢」でキム・ギドクと組んだオダギリジョーら、日韓のスターが集結。第68回ベルリン国際映画祭パノラマ・スペシャル部門招待作品。第29回ゆうばり国際ファンタスティック映画祭オープニング招待作品(上映タイトル「人間、空間、時間、そして人間(仮題)」)。
  • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    「メビウス」では全篇セリフ無しの形態に挑んだ。日本語と韓国語のスムーズな会話の描写くらいではもう驚かない。それよりも力強い設定と迷いなき脚本、ギドクに絶対の信頼をおいて状況を丸呑みする役者たち。極端な非日常を描き続ける作風であるが、おそらくギドクの撮影現場こそがもっとも非常事態だろう。リアリティがないと嘆く輩は、フィクションでもって現実に切り込んでいくギドクの姿勢こそがリアルでアクティビストだと気付くべきだ。そろそろギドク版宇宙SFも見たい。

  • フリーライター

    藤木TDC

    悪趣味に反吐が出そうな観念ポルノだが私は興奮した。まるでキム・ギヨンが21世紀に蘇ったようなニヒリズムと性悪説で書き換えられたギドク創世期。“軍艦”という人類史の本質を象徴する方舟の上で男と女、権力や暴力装置などに抽象化された人々がエゴと悪意のなすままレイプを重ね殺しあう。神は傍観者で誰も救わず人間はおぞましき禁忌を犯し生き延びる。グロい演出に体を張って応えた藤井美菜の壮絶な演技に拍手。異形の映像を商業作として問える韓国映画界の自由が羨ましい。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    女優への殴打やセクシャル・ハラスメントが問題となっている監督の新作を公開し、収益として後援するのは同意できない。作品は相変わらずギドクらしい突飛な設定で、人類全体への不信感などテーマや発想力は面白いが、全篇に溢れ返る「女はレイプ対象か売春婦のどちらか」という極端さには辟易する。セリフに日本語と韓国語が共存するのは構わないが、日本語だといかに緩衝材的なつなぎのセリフがないかがわかって、観念的なテーマのぎこちない押し付けの印象が増す。

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