いつくしみふかきの映画専門家レビュー一覧

いつくしみふかき

ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2019ゆうばりファンタランド大賞(観客賞)を受賞した人間ドラマ。出生時に父・広志が盗みを働き悪魔の子と言われる進一が教会に駆け込んだところ、同じ教会に身を寄せた広志と互いに親子と知らずに共同生活を始める。劇団チキンハート主宰・遠山雄が知人の実体験の映画化を企画、知人をモデルにした息子の進一を演じている。また、バイプレイヤーとして数々の作品に出演する渡辺いっけいが映画初主演。監督は、初監督短編「ほるもん」が2011年度ショートショートフィルムフェスティバルNEOJAPAN部門に選出され、劇団チキンハート、大山劇団の作・演出家を務める大山晃一郎。第5回新人監督映画祭観客賞、第5回富士湖畔の映画祭作品賞・監督賞・最優秀助演俳優賞ほか多数の映画祭で受賞。
  • フリーライター

    須永貴子

    犯罪者の子が背負う苦悩、罪人への赦し、人は改心できるのかといったテーマは真摯で重い。だが、母親も含む善人顔をした村人たちの陰湿さ、父親が悪事を働くときの水を得た魚のような高揚感、容赦のない暴力描写、神父が父子を向き合わせようと画策するシーンのおかしみなどがアンバランスに共存したことで、奇跡的に軽やかで抜けのいい後味を残す。宗教画を意識したと思わせる明暗差の強い照明に着目すると、作り手がどの人物に真の悪を投影しているかがわかる。

  • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

    山田耕大

    「親があっても子は育つ」と、太宰治はよくぞ言ってくれたものだ。親の罪は子供の罪よりずっと根が深いし、今に始まったことでもない。ユートピアだったと勘違いされている江戸時代には親は子供を商家や女郎屋に当たり前のように売り飛ばしていた。で、この映画は半ば実話らしい。親というのはいつの時代もろくでもない。進一君は何も悪くないのに、悪父のせいで不遇をかこちまくるが、それでも父を思って生きている様が涙なしでは見られない。いいね!

  • 映画評論家

    吉田広明

    親の「悪魔の血」が息子にも、で、息子が村から追放されるという設定がスゴい。何時代だ。といってフォークナーか中上かという神話的親子関係を構築するでもなく、教会が出ても宗教的赦しを描くわけでもない(そもそも旧教の罪や赦しの概念を考えているようでは全くない)。ヤクザの暴力描写、コメディ的場面、息子の成長物語、様々な要素がバラバラで生煮え。一本の映画として見た時にどう見えるのか、計算ができていない。まだ長篇映画を演出できる熟度にないということだ。

1 - 3件表示/全3件