僕は猟師になったの映画専門家レビュー一覧

僕は猟師になった

    京都でワナ猟師をする千松信也の猟期に密着した、2018年放映のNHKドキュメンタリー番組『ノーナレ「けもの道 京都いのちの森」』の映画版。300日にわたり追加取材を行い、約2年間の映像を編集し直し、命と向き合うために千松信也が選んだ営みにさらに迫る。「宮本から君へ」などに主演する俳優・池松壮亮がナレーションを語りおろした。「鹿鳴館」をはじめとする市川崑監督作品やNHK番組『その時歴史が動いた』テーマ音楽を手がけてきた作曲家・ピアニストの谷川賢作が音楽を担当。
    • フリーライター

      須永貴子

      山に残された猪の痕跡、12㎝の穴を地面に掘って作るワナ猟、捕獲した猪(の胎子は衝撃…!)や鹿の解体作業など、猟に関するシーンはネイチャードキュメンタリーとしてハイレベル。それ以上のインパクトを残すものが、千松氏が語る命の哲学と、その生き方。獣害を取材したパートにより、作品の軸が社会問題とどっち付かずになってしまった。森の仙人ではなく、真っ当さの純度を高めながら、社会と折り合いを付けて生きる千松氏を追うだけで、十分成立したように思う。

    • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

      山田耕大

      わな猟師の千松さんは京大生の時、「自分で肉を獲れたらおもしろそう」と猟師免許を取ったという。獲った獣の肉は売らない。家族や知人と余すことなく分け合う。猟の時に千松さんは足の骨を複雑骨折するが、手術しないと足が曲がってしまうと言われても、ギプスをあてがうくらいの最低限の治療しか受けない。そうやって獣と向き合っている。終盤、罠にかかった猪との格闘は圧巻。棒で猪の頭を叩こうとする千松さんに対して、猪は口に枝を咥えて対抗しようとする。人も獣も対等なのだ。

    • 映画評論家

      吉田広明

      目に見える徴から目に見えない獣の生活世界を読み取る過程や、必死に抵抗するイノシシを殴り、のしかかってとどめを刺すまでの数分に亘る壮絶な格闘を見ると、漁師は言わば獣化しているようで、しかしそれで初めて人と獣は均衡するのかもしれない。人が山に入らなくなったから、獣が町に下りてくるという。それだけ人間が獣に競り負けているのかもしれない。「獣害」は人が自然から自身を隔離しようとするからこそ生じるという逆説。人と自然はどうあるべきかを獣側から照射した作品。

    1 - 3件表示/全3件