シリアにての映画専門家レビュー一覧

シリアにて

内戦が続くシリアの首都ダマスカスを舞台に、ある家族の緊迫の24時間を描いた密室劇。一歩外に出れば、直ちにスナイパーに狙われる状況の中、戦地に赴いた夫の留守を預かるオームは、幼子を抱える隣人夫妻と共に、自宅に身を潜めて暮らしていたが……。出演は「ガザの美容室」のヒアム・アッバス、「判決、ふたつの希望」のディアマンド・アブ・アブード。
  • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    画面の外、いわば部屋の外は完全に戦争状態。密室劇でもあるし舞台劇でもある。外的作用が内的影響を及ぼしていく過程。戦争による直接の砲弾や射撃はさることながら、苛酷な状況下において個人により判断や行動が異なり、共同体で分裂や分断が起きてしまう。これは現代のコロナ禍でも同じ状況で、人によって捉え方の温度差に激しく分裂が生ずる。戦争経験とはあらゆる人間に降りかかるが、決して同じ様相には映らない。武器での死傷より共同体の分断は人の心を深く傷つける。

  • フリーライター

    藤木TDC

    激戦化しつつあるシリア都市部のマンション住民を室内だけで描いた一幕劇。裕福で名声もあったろう人物の所有する部屋数が多く複雑に移動できる広い物件がシェルター化し、娘の恋人や上階住人まで共棲、平時のユルい日常をひきずる普通の人々の点描が巧みで逆説的に戦下の厳しさが迫ってくる。名女優ヒアム・アッバスの含みの多い演技が魅せるも、中盤以降の展開に工夫がまったくなく平面的。娯楽性の薄い映画祭向け映画をコロナ禍の暗い世情のもと、あえて見よと推すのは躊躇される。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    一種のシチュエーションスリラーとなっていて「ある建物の一室から出られない人々」の設定がうまく機能している。一家の大黒柱となっている主人公と、彼女と絡む助演の2人は女性で家事や子育てを行う。この建物に残された男は老人と子どものみで、ただ生きているだけ。肝心の能動的な男性たちは、この建物へは強奪と凌辱目的でやってくるという、性別による役割や好戦性が表立って描かれている。戦争の攻撃が間欠的で、日常生活に銃声が侵入してくるため緊張が続く。

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