傍観者あるいは偶然のテロリストの映画専門家レビュー一覧

傍観者あるいは偶然のテロリスト

大島渚の「東京戦争戦後秘話」に主演した後藤和夫が、ジャーナリストとしてパレスチナを取材した経験に基づくドキュメンタリー。かつて、紛争が続くパレスチナを取材した後藤は、新しい映画のシナリオを手に、ロケハンを兼ねて20年ぶりに彼の地を訪れる。後藤は2018年に開館した“シネマハウス大塚”の設立メンバーであり、本作はその第1回作品として製作された。
  • 映画評論家

    川口敦子

    20年前、フリージャーナリストとして訪れて以来、3年間に20回近く訪問したパレスチナ、その地を舞台にした「劇映画のロケハンもかねたセルフドキュメント」とプレスに書く監督後藤、彼が主演した「東京?争戦後秘話」を見終えたフィルムセンター大ホール、今は亡きS氏のあのちょっと首を前に突き出した笑顔に遭遇したなあと追憶モードに囚われ、そういえばと唐突に脈絡もなく『追想にあらず』も読み始めた、そんな札付きの傍観者の目にも記憶と記録と現在、「壁と青空」は沁みた。

  • 編集者、ライター

    佐野亨

    大仰でなく、日本のドキュメンタリー史に残る重要作ではなかろうか。事実を立脚点としながら、この映画は虚と実の境界を止揚し、映画が世界を切り取ること、あるいは世界をつくりだすことの限界と可能性を、すべての作り手と観客に問いかける。その意味でこの映画は、土本典昭が「不知火海」で乗り越えてみせたキャメラと対象の関係性、その先に屹立している。「偶然のテロリスト」というシナリオ題に「傍観者あるいは」と付け加えられたことの意味は、とてつもなく重い。

  • 詩人、映画監督

    福間健二

    粗いスタンダードで過去、きれいなヴィスタで現在。後藤監督は、パレスチナを二〇〇〇年から三年間取材した。現在は二〇一九年五月。構想する劇映画のロケハンを兼ねて旅をした。パレスチナにいまもこだわる。その姿、人との接し方、言葉に、変わらない魅力がある。なぜ自爆テロか。一方、なぜイスラエルはこうなのか。踏み込みはともかくとしても、だ。しかし、過去からここまでの時間のたどり方、どうだろう。アブ・アサド作品などをどう見たのかくらいは出してほしかった。

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