赤い闇 スターリンの冷たい大地での映画専門家レビュー一覧

赤い闇 スターリンの冷たい大地で

アグニェシュカ・ホランドが、スターリン政権下のソ連の真実に迫ったジャーナリストの実話を映画化。1933年。モスクワを訪れた英国人記者ジョーンズは、世界恐慌下で繁栄が続くソ連の真実を知るため、当局の監視を逃れ、ウクライナ行の汽車に乗るが……。出演は「フラットライナーズ」のジェームズ・ノートン、「ワイルド・スピード/スーパーコンボ」のヴァネッサ・カービー、「マグニフィセント・セブン」のピーター・サースガード。
  • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    中盤からの低い彩度の絵作りは、ウクライナ地方の悲惨な飢饉を表現。宗教は民衆のアヘンとする共産主義は、言語の定義によってのみ社会を形成する。ジョーンズのような不屈なジャーナリスト魂が追い求める「真実」は、共産主義には存在し得ないというのがこの映画の主張だ。しかし今や日本を始め世界中の報道は、印象操作や各国政府のご都合主義の圧力が存在する。フリーだからこそ信念を持ち続け、国家の暗部を照らし続ける世界中のジャーナリスト精神を刺激してもらいたい。

  • フリーライター

    藤木TDC

    良作。重い題材だが演出がスピーディで気分が沈みすぎず、しかも映像に70年代の男性映画のような硬質なテイストがあり引き込まれる。中盤のウクライナを描く色彩を排した寒々しい映像は圧倒的だ。宣伝文から予想しうる既知の事件を“歴史の闇”とぼかす売り方には事件を告発するだけの内容かと危惧したが、“闇”については案外比重がなく、知らなかった人は復習がいる水準。その告発後に別の問題提起を用意しているのが周到で、今日的かつ切実なトピックは深く考えさせられた。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    連なるシーンのテーマごとに、編集のタイミングや話法、撮影のスタイルを大胆に変えてくるホランド監督やスタッフの能力に感嘆。ウクライナでの没入感や、次の場面に入ったと気づかせる派手さはありつつ、しかし一本の映画の調和を乱さない範囲での移ろいが見事。その末期も含めて主人公と、映画全体の趣旨も絶望に突入していく恐怖を伴う、かなり強面な作品だ。カービーの激しい顔立ちも素晴らしくマッチしているが、ただ食えない人物としてのサースガードの起用は退屈。

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