行き止まりの世界に生まれての映画専門家レビュー一覧

行き止まりの世界に生まれて

主要産業が衰退した米国ラストベルトで暮らす少年たちを映し、第91回アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされたドキュメンタリー。暴力的な家庭から逃れるようにスケートボードにのめり込む3人だが、成長するにつれ様々な問題に直面し……。監督のビン・リューは、10 代の頃から撮りためたスケートビデオと共に、閉塞感のある故郷でもがく若者3人の12 年間を通し、明るく見える少年たちの暗い過去や葛藤、人種や貧困など様々な分断を孕んだ米国の現実を映し出す。第71回エミー賞ドキュメンタリー&ノンフィクション特別番組賞ノミネート。第34回サンダンス映画祭ブレイクスルーフィルムメイキング賞などを受賞。また、第44代米国大統領のバラク・オバマが本作を2018年の年間ベスト映画10本に選出した。
  • 映画評論家

    小野寺系

    格差問題の深刻化による貧困層の増加と、セットで悪化する家庭内暴力の問題。90年代のドキュメンタリー「フープ・ドリームス」が映し出した、都市の子どもたちの環境はさらに過酷なものとなり、持たざる者の夢はより遠くなってきている。本作の少年たちは、そんな厳しい現実から目を背けるためにスケートボードに集中し、日々をただやり過ごしているかのよう。この出口の見えない世界の絶望を当事者の側から眺めた本作は、アメリカを撃つ厳しい告発としての意義を持っている。

  • 映画評論家

    きさらぎ尚

    成長する三人の姿から、ドキュメンタリーの本物の力強さとドラマ性の、両方を堪能できる。スケボー店のオーナーが言う「スケボーは単なる遊びや仲間作りの道具ではない。これがあれば世界に行ける」のとおり、彼らの感情の動きを捉えた映像、“ここからどこへ行くのか”と問いかけ、行き止まりの世界にいる者たちは、観客の感情をぐいぐいと引っ張る。なかでも被写体であり監督でもあるB・リューの、自身へのカメラの向け方が優れている。もはやアメリカ一国の話では終わらない。

  • 映画監督、脚本家

    城定秀夫

    スケボーを追いかけるカメラの迫力は出色ものなのだが、そのカメラはドキュメント部分では監督の身の回りの友人の人生のうわべを映すばかりで、奥に見え隠れする危険地帯には決して踏み込んでいかず、それでも過去の虐待の悲惨さは伝わってくるとはいえ、今の彼らには気の置けない仲間がいるし、家も車もあり、再三に渡って破壊されているスケートボードだって安いものではないはずで、観ているこちらの疑問は膨れてゆくばかり――果たしてそこは本当に行き止まりなのでしょうか?

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