アングスト/不安の映画専門家レビュー一覧

  • 映画評論家

    小野寺系

    理由なく殺人を犯す悪魔の所業と思わせておいて、論理性が次第に明らかになる過程が圧巻。自分を異常者とは別だと信じる大多数の観客の思い込みを切り裂き、不安を感じさせる傑作だ。83年製作にもかかわらず、本作から多大な影響を受けただろうミヒャエル・ハネケやギャスパー・ノエの表現よりはるかに純粋かつ斬新で、公開当時あまり理解されず各国で上映禁止の憂き目に遭ったのも分かる。描写自体は過激だが、犯罪や偏見に肩入れした内容でなく、むしろ健全な部類に入る作品。

  • 映画評論家

    きさらぎ尚

    3日間限定で仮出所した主人公が、その足で凶行におよぶ様子を描いたこのサイコ・ホラーを最後まで正視するのは、かなり不快な映像体験。実在の殺人鬼である主人公の異常性に加え、彼の表情や動きを張り付くように捉えた手持ちカメラが、異常さを際立たせる。セリフを最小限にして、多くを主人公の独白に委ねたことも大きい。一時期タンジェリン・ドリームのドラマーだったクラウス・シュルツェの音楽も不気味さを増幅させる。出来栄えはともかく、苦手な分野なのですみません。

  • 映画監督、脚本家

    城定秀夫

    ステディカムにより強制的にブレを抑え込んだうえで乱暴に動き回る異様なカメラワークは、はた目には理解不能な無軌道ぶりでも自身は理知的な計画に基づいて行動していると思い込んでいる主人公に重なるもので、安定と不安が同居を果たす混沌の恐怖をかような形で表現し、なおかつ手法的なあざとさや露悪から逃れている清々しさは、ホンモノの狂気を生のまま捉えたこの映画の狂気もホンモノである証左で、世の中にはまだこんな傑作映画が埋もれているということもまた、恐怖である。

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