わたしの叔父さんの映画専門家レビュー一覧
わたしの叔父さん
第32回東京国際映画祭コンペティション部門にて最高賞にあたる東京グランプリを受賞した人間ドラマ。デンマークの農村で年老いた叔父と静かに暮らすクリスだったが、かつて抱いていた獣医になる夢を思い出し、さらに青年マイクからデートに誘われ、葛藤する。監督は、本作が長編2作目の新鋭フラレ・ピーダセン。フラレ・ピーダセンの長編デビュー作「Hundeliv」で女優デビューしたイェデ・スナゴーが若い姪のクリスを演じる。監督はデンマークの農村に住み込み、イェデ・スナゴーの叔父であるペーダ・ハンセン・テューセンに密着しながらストーリーを作り、ペーダ・ハンセン・テューセンはクリスの叔父役で本作に出演している。
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映画評論家
小野寺系
主人公が現状を打破して一歩前に踏み出していく……。そんな映画が数多いなか、むしろなかなか踏み出せない状況を温かく、ときに崇高であるかのように描くという点が挑戦的な作品。日常を丹念に描いていくだけなのかと思いきや、少女ギャグ漫画『お父さんは心配症』のような笑える展開になっていくのが面白く、ユーモアのセンスが相当ある監督だと思う。牛舎の中を映し出す場面では、作業道具を手前に置いた不自然な構図が、昔の大映作品を見ているようで、ここでも笑ってしまった。
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映画評論家
きさらぎ尚
セリフが初めて発せられるまで、映画が始まってから10分弱。日々のルーティンワークをこなす叔父と姪を見つつ、この間の無言に軽い戸惑いを覚える。同時にこれから動き始めるはずのドラマへの期待も。固定カメラによる画面はすべてのシーンの人物の感情表現も抑えられ、映像も簡素さで統一され、ドラマは観客を二人と同じ場所にいて彼らを観察しているような心地にさせる。ドキュメンタリーの風合いを持つ映像から揺らぎながら形を現す人間味。期待以上に、豊かな映画である。
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映画監督、脚本家
城定秀夫
毎日同じ朝食をとり、畜舎で同じ作業を繰り返し、同じ時間に床に就く、という単調な日常を頑ななまでにカメラを動かさず雑味を排した画面で切り取ってゆく手つきは、世間との繋がりを僅かニュース音声にとどめていることも含め、渡辺紘文率いる大田原愚豚舎映画のようで、開巻早々にして大好物確定であったし、ヒロインに恋心が芽生えたことにより少しずつ変わってゆく生活の中で寡黙に紡がれてゆく彼女とその叔父の互いへの不器用な思いやりが、もどかしくも切なく胸に迫ってきた。
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