トゥルーノース(2020)の映画専門家レビュー一覧
トゥルーノース(2020)
生存者の証言を基に、北朝鮮強制収容所の内情を抉り出す3Dアニメ。1995年。平壌で家族と幸せに暮らしていたパク一家だったが、父が逮捕され、家族は全員、強制収容所に送還されてしまう。過酷な労働を強いられるなか、長男ヨハンは次第に優しい心を失ってゆく。監督は「happy しあわせを探すあなたへ」のプロデューサーを務めた、在日コリアン4世の清水ハン栄治。第33回東京国際映画祭 ワールド・フォーカス部門正式出品作品。
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非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト
ヴィヴィアン佐藤
北朝鮮に存在する政治犯強制収容所の実態。ナチス・ホロコーストを想起させる身の毛がよだつ光景。しかし、この完璧に感情移入させる作品の高度な手法にこそ驚愕させられる。全篇アメリカ英語、3Dアニメ、見慣れた色彩設計、ディズニーやピクサーを思わせる人物たちの動作や表情、そしてTEDでのプレゼン。これでもかというほど北朝鮮という国の狂気や正義の不在が描かれていく。思わず感情が激しく動かされている自分を傍観しつつ、我々の社会は少しはマシなのだろうか。
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フリーライター
藤木TDC
コロナ禍の今、厳しい日々をおくる人々にわざわざ見ろとは勧めにくい暗澹たるアニメ。姜哲煥・安赫『北朝鮮脱出』や安明哲『北朝鮮絶望収容所』などの書籍の翻案風なので既読者には目新しさはない。ただし英語劇やCGアニメという手法ゆえ情報に接してこなかった人々への啓発効果が期待され、上映の意義は感じる。描かれる世界が完全に事実にもとづく可能性も多いにあるが、あまりに前時代的、非人道的すぎプロパガンダやエクスプロイテーション映画にも見えてしまうのが弱点だ。
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映画評論家
真魚八重子
凄惨さでは「はだしのゲン」に迫る勢いで、息つく暇もなく胃に穴が開きそうな出来事が湧き起こっていく。これまでにも現実がフィクションを軽く超えてくる出来事は目撃してきたから、秘密のベールに包まれた国についても、本作が大袈裟とは言い切れない。最初に組織の中枢で実権を握った小さい利己的な仕組みが、国全体の方向性を大きく決定づけていく機運は本当に不思議だ。人間の悪い想像力が、容赦ない残忍さで人を管理する国のあり方にフィードバックした、最恐のリアルホラー。
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