私は確信するの映画専門家レビュー一覧

私は確信する

ヒッチコック狂による完全犯罪として世間を騒がせた未解決事件を基にしたサスペンス。スザンヌが忽然と姿を消し、夫である大学教授のジャックが彼女を殺した容疑で裁判にかけられる。彼の無実を確信するノラは敏腕弁護士に弁護を依頼、自らも調査に乗り出す。長編初監督のアントワーヌ・ランボーが、「シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢」のマリーナ・フォイスや「息子のまなざし」のオリヴィエ・グルメら実力派俳優陣と組み、裁判と事件の調査を並行して描く。
  • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    実際の事件を基にしているが主人公ノラは実在しない。またいまだにスザンヌの「死」も確認されていない。中心不在。容疑者の影は薄く、証人たちが際立つ。フーコーやベンヤミンはギリシャ悲劇のうちに裁判の原型を指摘した。裁判という場こそ演劇的で、事件をどのように再物語化するかの争いだ。そしてtheatreの語源であるギリシャ語theatronは「見る、思索する場所」という意味。あくまでも結果ではなくその過程を見せる手法は、観客にとことん思索させる仕組みとなっている。

  • フリーライター

    藤木TDC

    丁寧に演出された法廷劇。音声記録を重要なモチーフにする点は「カンバセーション…盗聴…」や「ミッドナイトクロス」に似て、不可視要素でサスペンスを重層化する映像魔術の快感がある。淡々としてビジネスライクな中年男性弁護士と、証拠分析に没入し日常が崩壊する女性ボランティアのコントラストも面白い。ただ針の穴の盲点発見に期待した私は結末に「えぇ~!?」だった。実話ベースなので仕方ないかもしれないが、それが本旨なら中盤まで違う設計にしたほうが効果的だったろう。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    実録犯罪映画の妖しい魅力があり、法廷劇としても観客が求める見せ場が用意され満足度が高い。主人公の女性がある裁判にのめりこんでいく過程を、編集で巧みにスキップしながら追っていく語り口が絶妙。事件は言葉による説明のみで再現映像はなく、駆けるような展開ながら迷子にならずに観られる。真犯人について強めの匂わせをするが、あくまで推定無罪についての映画のスタンスを守るのもわきまえている。弁護士役のオリヴィエ・グルメの素晴らしさ! 重厚さと繊細な演技に感嘆。

1 - 3件表示/全3件