海辺の彼女たちの映画専門家レビュー一覧

海辺の彼女たち

技能実習生として来日したベトナム人女性たちの姿をリアルに描いたドラマ。技能実習生のアン、ニュー、フォンは、3ヶ月間働いてきた過酷な職場から脱走を図る。ブローカーを頼りに雪深い港町に辿り着いた彼女たちは懸命に働き始めるが、フォンが体調を崩す。監督・脚本は、「僕の帰る場所」の藤元明緒。第68回サンセバスチャン国際映画祭新人監督部門、第33回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門、第42回カイロ国際映画祭インターナショナル・パノラマ部門出品。
  • フリーライター

    須永貴子

    取材を元にしたドラマには、リアルをそのまま映し出すドキュメンタリーとはまた違う力があることを証明する力作。本作の場合は、日本で失踪した外国人技能実習生の証言を元にしているため、ドラマにすることで、より真実に近づくことができる。この作品のためにヴェトナムでキャスティングされた3人のヴェトナム人女優の、異国の地で生きる同胞に寄り添う演技の功績も大。移民や弱者の物語として、「ミナリ」や「ノマドランド」と比べて遜色のない出来。つまり、世界レベル。

  • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

    山田耕大

    こんな彼女たちが世界にどれくらいいるんだろうか。膨大な数に上るであろうこんな彼女たちの命が、燃えることなく燻っている。彼女たちの諦めの表情が胸にぐいぐいと迫ってくる。彼女たちは怒らない。叫ばない。泣かない。いや、一度だけ涙を流す。ただ淡々と生きている。妊娠したフォンは超音波映像の胎児を見て、「小さい」と微笑みながら涙を流す。産めないことをもう知っているのだろう。病院帰りの硬い表情のフォンをカメラが延々と追う。ああ、これこそ映画なのだ。

  • 映画評論家

    吉田広明

    技能実習生として搾取され、逃げ出した先で孤立するヴェトナム人女性たちを描くが、映画はもっぱら彼女たち、その中でも妊娠によってさらに苦境に立たされる女性に密着しており、その閉塞的な視点がリアルと言えばリアルだが、彼女らを援助しつつ搾取もするヴェトナム人中間組織が現れるばかりで、彼女らの状況を生み出している根本、外国人を安価な労働力としかみなさず、本気で自分たちの社会に受け入れようとしない日本という国の閉鎖性まで迫っていかないのには不満がある。

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