空蝉の森の映画専門家レビュー一覧
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映画評論家
北川れい子
設定も人物も、そして映像もミステリアスな、オリジナル脚本だが、118分、描き足りないような、或いは描きすぎのような。いずれにしてもどこか据わりの悪い印象が残る。“空蝉”と言えば『源氏物語』のまだ10代の頃の光源氏がいたく執着した若い人妻の名前で、何かそれと関係がとも思ったが、ひょっとしたら定年間際の刑事(柄本明)にとって酒井法子が演じる女は、女の抜け殻だったか。深い森のロング映像と正体不明の人物が非現実的で、ラストの水中映像も後を引く異色作。
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編集者、ライター
佐野亨
撮影(中尾正人)と照明(赤津淳一)に息をのんだ。冒頭の暗い森とそれに続く夜間の街路風景、日本家屋の庭の木々が室内をうっすらと緑色に染める光の使い方、水中の深い蒼。画角や構図にも都度たくらみがあり、観る者を引き込む。終始疲れた(憑かれた)表情の酒井法子はじめ役者たちもそれぞれに魅せるが、直接的な描写のみならず、あらゆる場面に重いエロティシズムが宿っているのは紛れもなく亀井亨の作家性である。時期には恵まれなかったものの、ひとまず公開を喜びたい。
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詩人、映画監督
福間健二
酒井法子の危うさを目一杯使ったストーリーと撮り方。冒頭しばらくは顔が見えない。顔が見えてからも人間として迫ってくるものがない。酒井法子はそうなのであり、役の狙いでもあればそれまでだが、何を救おうとする謎解きなのか、はっきりしないままだ。亀井監督と中尾正人のカメラによる創意の画も、アート感はあるけど、寄るべきところで寄らないし、グレーディングもワンパターン。男性陣、中途半端に動かされている感じで同情するが、善悪どちらでも行きつく場所が見えない。
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