旅立つ息子への映画専門家レビュー一覧

旅立つ息子へ

東京国際映画祭で二度のグランプリに輝くイスラエルのニル・ベルグマンが、実話をモデルに親子の絆を描くヒューマンドラマ。自閉症スペクトラムを抱える二十歳の息子ウリと二人で暮らすアハロン。だが、ウリの特別支援施設入所が決まり、2人は逃避行の旅に。出演はイスラエルのベテラン俳優シャイ・アヴィヴィ、オーディションで抜擢された新人ノアム・インベル。
  • 映画評論家

    小野寺系

    自閉症スペクトラムの青年と、彼を優しく献身的に見守る父親との社会生活や旅がゆったりと描かれることで、社会における双方の立場の生きづらさが可視化されている。その上で、彼ら二人のそれぞれの課題や成長が、リアリティをともなって具体的に映し出されている。なかでも息子の性の問題は、見ているこちらもどぎまぎしてしまうが、家族の辛い決断を含めて、映画作品として扱いづらい要素を逃げずに撮りあげ、そこから生まれる複雑な感情を観客にも体験させるところが素晴らしい。

  • 映画評論家

    きさらぎ尚

    父親と自閉症の息子の二人旅という物語の主筋から、主役の周辺の人物を通して別のストーリーが見えてくることがこの作品の強み。まず母親が主張する「息子を施設に預けるべき」に、歩み寄れない夫婦の別れがある。かといってこの父親は全面的に息子に寄り添っているわけではなく、自分に都合の悪いことから旅を口実に、逃げている。さらに実兄との確執も露呈させる。障碍を抱えた息子に寄り添うことだけを唯一の父性愛とはせず、複眼的な視点でアプローチした父子旅は含蓄がある。

  • 映画監督、脚本家

    城定秀夫

    自閉症の青年を施設に入れようとする母親の意見は中立の目線からは何の間違いもなく、彼女から息子を遠ざけて先のない逃避行を続ける父親は愛情をたてにして子離れできない心の弱さをごまかしているようにも思えてしまうのだが、そんなモヤモヤをひと息で吹き飛ばしてしまうラストの数分がとにかく素晴らしく、大仰な音楽で盛り上げることも感動的なセリフで繕うこともしない、どこまでも慎ましやかで美しいエンディングにぼろぼろ涙を流しながら、映画表現の豊潤さを改めて感じた。

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