戦火のランナーの映画専門家レビュー一覧

戦火のランナー

    難民からオリンピック選手になったグオル・マリアルの半生をたどるドキュメンタリー。8歳の頃、戦火のスーダンを走って逃げたグオルは、幸運にも難民キャンプで保護され、16歳でアメリカへ渡る。やがて、初めて走ったマラソンで五輪出場資格を得るのだが……。ドキュメンンタリーのプロデュースなどを手がけてきたビル・ギャラガーによる長編初監督作。
    • 映画・音楽ジャーナリスト

      宇野維正

      人物を対象としたドキュメンタリー映画への評価は、その人物に対する敬意や畏怖の念と分けて考えたい。その前提に立つなら、本作から得られるのは、テレビのドキュメンタリー番組や再現ドラマを視聴するのと変わらない情報でしかなく、映画的な体験として評価すべきポイントはない。また、どこかで何度も見てきたような、一人のアスリートの過酷な人生を通してオリンピック大会の大義を正当化する、IOCのプロパガンダ作品的な側面にも鼻白まずにはいられない。

    • ライター

      石村加奈

      「走る原動力とは?」等、会見で難問に簡潔に応じるスポーツ選手の姿には畏敬の念を抱くばかりだが、ビル・ギャラガー監督はグオル・マリアル選手に安易に言葉を求めない。アニメーションを用いた回想シーン等様々な映像資料を巧く組み合わせて、いまなお走り続けるグオルの心の炎に静かに迫る。約7年かけた信頼関係に基づく、誠実な構成だ。ロンドンオリンピック当時、シカゴ・トリビューンを筆頭に、世界のマスコミが連携し、独立選手団という第三の選択肢を生んだドラマも感動的。

    • 映像ディレクター/映画監督

      佐々木誠

      開催の是非で揺れる今回の五輪。オリンピックの意義についてここまで考えたことはなかったが、本作は、その東京大会に向かって動き出すところで終わる。過酷な運命を命がけで“走って”生き抜いたグオル・マリアル。彼の視点を通してスーダンの内戦、南スーダンの誕生、という制圧と略奪の日々、そこからの希望が描かれ、オリンピックの存在意義も語られる。政治と密接に結びついているイメージがより濃くなったこの大会になぜ選手は夢を見るのか。その想いが深く刻まれている。

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