偽りの隣人 ある諜報員の告白の映画専門家レビュー一覧

偽りの隣人 ある諜報員の告白

「7番房の奇跡」のイ・ファンギョンが監督、軍事政権下の韓国を舞台にした社会派サスペンス。国家安全政策部は野党政治家ウィシクを逮捕。自宅軟禁中のウィシクを監視するデグォンは、家族と国民のことを思う彼の声を盗聴するうちに、上層部に疑念を抱く。「レッド・ファミリー」のチョン・ウが正義感の強い諜報員ユ・デグォンを演じ、「朝鮮名探偵 鬼<トッケビ>の秘密」のオ・ダルスが政治家イ・ウィシク役で約2年ぶりに映画界に復帰した。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    尺はもう少し刈り込めたはずだが、深刻で重厚な主題をストレートに提示するのではなく、コメディタッチの演出が中心となる序盤から次第に各人物が直面する切実な状況を強調する方向に舵を切っていく流れは非常に巧み。また、展開にメリハリをつけることに加えて、ユーモアや軽みの要素が劇中でウィシクが何としても守ろうとした平等や民主主義の価値観とリンクさせられている点も見逃せない。悪役や主人公の部下たちも含め、すみずみまでイイ顔を揃えた俳優陣もそれぞれに魅力的。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    独裁政権の手段を選ばぬクズっぷりに反して民主化を進める党首側の人間味あふれる温かさの極端な対比はわかりやすすぎるが、社会派ドラマをエンタメとして楽しませようという心意気はとても好き。ただ「若くて純真で父親思いの美人な娘」を無惨にも犠牲にすることで主人公が心を入れ替えるためのトリガーとして機能させたり、見ることと聞くことに特化された極めて映画的な「張り込み」を映画の中心に据えながら、その描写に新しさを感じさせてくれなかったところなどが悔やまれる。

  • 文筆業

    八幡橙

    懐かしい手触り。二十年近く前、韓国ノワールに「洗練」という枕詞が付く遙か前に量産されていた、笑いも涙も感動もミソもクソも全部まとめて煮詰めたような、泥臭くも深く濃い、煮凝り風味の韓国映画のにおいがした。#MeToo運動で性犯罪疑惑が浮上したオ・ダルスが、金大中を彷彿とさせる人物を演じ、二年ぶりの復帰を果たした本作。彼の抑揚の効いた演技と、対するチョン・ウの熱血ぶりの塩梅も程よく、個人的には同監督の大ヒット作「7番房の奇跡」より、むしろしっくり来た。

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