安魂の映画専門家レビュー一覧
-
脚本家、映画監督
井上淳一
なぜわざわざ中国でこんなものを作ったのか。作家の父は子供を自分の価値観で雁字搦めにする。この作家は何を書いてきたのか。中国で作家であり続けることの困難さが父を頑なに変えたのか。そこを描かないと、単なる息子ロスものでしかなく、中国である必要も作家である意味もない。中国映画で描けないことは中国ロケ映画でも描けないのか。ならばわざわざ作らなきゃいいのに。冨川元文の脚本に心震わせた時代が確かにあった。作らなくていい映画、やらなくていい仕事があるのでは。
-
日本経済新聞編集委員
古賀重樹
家柄が違うために親が息子の結婚を許さないという悲恋のメロドラマとして始まり、死者がよみがえるファンタジー、さらには詐欺師ものへと緩やかに変転し、最後は残された者が息子の死を受け入れるグリーフケアの物語として着地する。ずいぶん難しそうな構成のドラマを日向寺太郎監督が人情劇として成立させている。それも中国という異国を舞台に。生活様式が違っても親子の情愛に変わりはないと言えばそれまでだが、中国人俳優たちを相手に自分の演出を貫いた力量は評価したい。
-
映画評論家
服部香穂里
息子の不慮の死が投げかける重層的波紋を、人間ドラマの良作を撮り続ける日向寺太郎監督が細やかに映す。厳格で理性的だったはずの父が、スピリチュアルなものに救いを求めるのに対し、夫の陰で家庭を支えてきた母は、現実を受け止め逞しく変貌する。日中友好の象徴たる日本人留学生は、息子と生き写しの青年の素顔を引き出し、深まる夫婦の溝の修復にも尽力。決して消えない後悔や罪の念も故人を偲ぶ拠りどころにして、喪失の痛みとともに生き続けるための道しるべとなり得る力篇。
1 -
3件表示/全3件