クレマチスの窓辺の映画専門家レビュー一覧

クレマチスの窓辺

都会の喧騒から遠く離れて、一週間の休暇を田舎でゆったり過ごすことにした女性の小さな冒険を描いた、爽やかで、ちょっと不思議なヴァカンス映画。島根県でオールロケされ、風光明媚な海辺や湖畔、町の喫茶店や民家の庭で懐かしい人たちとおしゃべりに興じる彼女に恋の予感が訪れる。日本映画学校を卒業後、映画やテレビドラマなどでフリーの助監督として活動してきた永岡俊幸の劇場デビュー作。主演はモデルとして活躍し、「愛の小さな歴史 誰でもない恋人たちの風景 vol.1」他で女優としても注目を集めている瀬戸かほ。街で出会う人々を個性豊かな俳優陣が固め、70年代の日活映画で活躍した小川節子の約45年ぶりの復帰作となる。主題歌「まどろみ」は、島根県出身のシンガーソングライター・山根万理奈が書き下ろした。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    なんだろう、この魅力は。女性が亡き祖母の家で一週間過ごす。ただそれだけ。何も起こらない。なのに、とても豊穣な映画的時間が流れる。観終わった後、主人公も僕も少しだけいいものになっている感じ。こういうのを才能というのだろう。台詞がいい。島根の風景の切り取り方がいい。役者もみないい。人物の背景を描かないのに、背景が見える。こういう「ご当地映画」なら大歓迎だ。食えない映画人の救済策のような「ご当地映画未満」はもう絶滅して欲しい。永岡俊幸、長篇が観たい。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    湖のある静かな地方都市の一角の亡き祖母の家に、東京からやってきて1週間のバカンスを過ごす女性の物語。いとこたち、その婚約者、友人、旅人などとの出会いを淡々と描く。そう書くとなにやらエリック・ロメールやジャック・ロジェの映画のようだが、あんまり似ていない。撮り方がまるで違うし、俳優のたたずまいも違う。むしろこの映画の主役は、つつましく松江の町に残っている古民家ではないか。ガラス戸も古いステレオも気持ちのいい庭も、どれも生々しくそこにある。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    都会の生活に息苦しさを覚える主人公の、現実逃避的なプチ旅行の数日間をスケッチすれば、すなわち“ヴァカンス映画”と呼べるのか。いとこの魔性の婚約者や女たらしの靴職人ら食えないタイプの地元民との絡みも、一触即発っぽい機会をお膳立てしつつ、上っ面のやり取りに留まり、毒にも薬にもならない一コマに終わる。亡き祖母の気配も意外に希薄ゆえ、家屋や日記を介し、生死を越えて育まれる孫とのつながりのようなものが映像からは見出せず、旅の軽さばかりが印象づけられる。

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