私はヴァレンティナの映画専門家レビュー一覧
私はヴァレンティナ
LGBTQの権利保障に動き、同性婚も認められているブラジル。だがその一方で、トランスジェンダーの中途退学率は82%、平均寿命は35歳と言われる。トランスジェンダーの少女がただ自分らしく学校生活を送ることの難しさをリアルに描き、現状に立ち向かう力強さを描いた希望の物語。主人公のヴァレンティナ役は自身もトランスジェンダーであり、著名な YouTuber &インスタグラマーとしても活躍中のティエッサ・ウィンバックが演じている。監督・脚本は、2008年に手掛けた短編「秘密の学校」がショートショートフィルムフェスティバル&アジア2009でオーディエンス・アワードを受賞したカッシオ・ペレイラ・ドス・サントスで、本作で長篇デビューを果たした。監督はプロデューサー・キャスティングディレクターのエリカ・ペレイラ・ドス・サントスともにLGBTQであり、多くの当事者の意見や参加が映画製作の全過程で重要だったと語っている。
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映画監督/脚本家
いまおかしんじ
女の子の何気ない顔がいい。不機嫌そうな顔がいつまでも残る。酒を飲ませないでと言いながらガンガン飲みまくるとか、かわいい。高校の友達との無邪気なやりとりも微笑ましい。物語が進むにつれて、無邪気でいられなくなる。息苦しくてじりじりしてくる。トランスジェンダーであることが、どんなに生きづらいか。困難な状況の中で、意地になって自分を保ち続ける主人公が、いじらしくて仕方なかった。肉屋の兄弟、ほんま最低! 教室でみんなが守るとこ、グッときた。
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文筆家/女優
唾蓮みどり
ヴァレンティナの目はいつも不安そうだ。その表情をカメラは控えめに追っていく。無理なことを望んでいるわけでも目立ちたいわけでもない。それなのに「違う」と見なされた瞬間、差別され暴力を受ける。望まぬアウティングをさせられ、性被害にあっても相手には「そんなこと」くらいの感覚でしかない。娘を見守る母親や仲間といる描写は優しく、彼女が自暴自棄にならないで済んで良かったと心から思う。時々きっと睨みつけるその表情を忘れたくない。この監督の今後にも期待。
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映画批評家、東京都立大助教
須藤健太郎
クラブに入ることができるかどうか。冒頭が示唆するように、ここではある空間の中に入る権利が問題であり、その空間とはひとまず画面のことだ。つまり、画面に映される権利がある者と、画面から退場させられる者がいる。ヴァレンティナは学校や町から追い出されそうになるが、実際は差別意識を抱えた者こそ映される価値も権利もないのだ。「私は差別しないけど」と言いつつ引越しを勧める女性。恋人の家族に娘のことを隠していた父親。そして、要望書を提出したマルコンの兄。
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