ふたつの部屋、ふたりの暮らしの映画専門家レビュー一覧

ふたつの部屋、ふたりの暮らし

愛する人との自由な生活を取り戻すために闘う女性たちを、独仏を代表する実力派女優が演じたドラマ。南仏モンペリエを見渡すアパルトマンの最上階、向かい合う互いの部屋を行き来して暮らす隣人ニナとマドレーヌは、実は長年密かに愛し合ってきた恋人だった。出演は、「ハンナ・アーレント」のバルバラ・スコヴァ、「ぜんぶ、フィデルのせい」のマルティーヌ・シュヴァリエ、「ジュリアン」のレア・ドリュッケール。監督は、本作が長編監督デビューながら第46回セザール賞新人監督賞を受賞したフィリッポ・メネゲッティ。第26回リュミエール賞新人監督賞、最優秀女優賞(スコヴァとシュヴァリエのW受賞)受賞。第93回アカデミー賞国際長編映画賞仏代表選出。第78回ゴールデングローブ賞非英語映画賞ノミネート。
  • 映画評論家

    上島春彦

    老いたレズビアン二人のあるほんの短い期間を描くだけだが、一度も結婚しなかったドイツ人女性と、自立した二人の子供のいるフランス人女性の心理状態の違いをくっきり提示する新人監督の実力は明らか。日本ではペギー・マーチの〈アイ・ウィル・フォロー・ヒム〉として有名な楽曲のイタリア語版〈愛のシャリオ〉も効果的で、歌詞から言えばこの映画は「ふたりだけの島」という邦題でも良かった。不穏な夢の情景に始まり最後のダンスまで的確なショット(画面)構成の連鎖に納得。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    少女たちがかくれんぼで戯れるオープニングシークエンスはその後の展開をほのめかしており、視覚的にもあまりに美しい。老後のレズビアンカップルを描く映画にあって、サスペンスジャンルにみられるような映画技法の援用はたぶんに彼女たちではない側にいるマジョリティのまなざしでもあるだろう。厳しい差別や偏見が描かれる本作は万人の心を優しく撫ではしないかもしれないが、日本の性的マイノリティを巡る状況を考えればリアリティからかけ離れた作品を手放しで歓迎もできない。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    どうして四十の男性監督がデビュー作の主人公に老女の同性愛カップルを選んだのかはわからないが、スジとヌケとシバイが高い演出力によって高次にまとまった力作だ。ニナ役のバルバラ・スコヴァがシンプルなアクションをもって見せる、他者や外部への「働きかけ」が少々行きすぎであっても心に突き刺さるのは、われわれが常にうす暗く、あらゆることがぼやけてしまって焦点を結ばない時代に生きていて、どうにか他者の存在を感じとろうと日々あがいているからに他ならない。

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