ぼくの歌が聴こえたらの映画専門家レビュー一覧

ぼくの歌が聴こえたら

K-POPの人気グループEXOでラッパー兼サブボーカルを担当するチャンヨルの初主演映画。少年時代のトラウマで箱の中でしか歌えない天才ミュージシャンと借金まみれの元敏腕プロデューサーが出逢い、韓国各地をライブツアーで周りながら次第に運命を切り開いていく音楽ロードムービー。「チャンス商会~初恋を探して~」(15)で映画デビュー以来、音楽活動と並行して俳優業もコンスタントに行ってきたチャンヨルが人前で歌えないミュージシャン・チフンを演じる。チフンを引っ張り回す敏腕プロデューサー・ミンス役は「ワンステップ 君と僕のメロディ」(17)やNetflixで話題のKゾンビドラマ『今、私たちの学校は…』(22)に出演するチョ・ダルファン。監督は2018年の平昌オリンピックの開幕式の演出を担当し、本作が映画初挑戦となったヤン・ジョンウン。韓国各地の美しいロケーションの中で、チャンヨルが世界的ヒットソングの数々を自慢の低音ボイスで華麗に歌い、ドラムにギター、ピアノを使った演奏や、自身が作品を手掛けたエンディングテーマ『Break Your Box』も披露する。
  • 映画監督/脚本家

    いまおかしんじ

    箱に入らないと歌えないとか、設定に無理あるやろと思いながら、引き込まれてしまうのは、歌のせいだ。主人公の青年の歌声が、心地いい。聴き惚れてしまう。ドサ回りで韓国のいろんな場所の名物料理が出てくるとこも良かった。どの料理も実に美味しそうだ。初めて箱から出て、上手くいかなくて、苦しんでいる彼を見ていると、胸が苦しくなった。相棒のイケてないおっさんもいい。人が良くて、金がなくて、虚勢を張るタイプ。こういう奴が出てくるだけで嬉しくなる。

  • 文筆家/女優

    唾蓮みどり

    人前では決して歌えない“ボックスマン”がついにボックスから出てくる――「自分の殻を突き破る」を具現化した物語なのだが、不思議なことに、この歌い手の心情と歌詞が全くリンクしていないことが多くかなり戸惑った。戸惑いつつも妙なエネルギーに触発されて決して嫌な感じはしない。〈オジョチゴ(夕食にチキンを食べよう)〉を歌うシーンなど思わず笑ってしまった。一昔前のアイドル映画の趣すらある。出てくる韓国のご飯がどれも美味しそうで、ロードムービーとしては楽しめた。

  • 映画批評家、東京都立大助教

    須藤健太郎

    箱はやはり必要なかった。アイデアとして成功していないということではない。この箱があることで、この箱は是か非かという議論を生んでしまう。しかも、最後に箱のない状態を目指すという物語でいいのか、箱に入ったままを肯定すべきではないか、と観客に考えさせてしまう。要するに、箱の存在によって、この映画の作劇のあり方が問題になってしまう。スペクタクルに特化したミュージカルというジャンルのなかに、作劇術という夾雑物を導入すること。それが不要と思うのである。

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