きっと地上には満天の星の映画専門家レビュー一覧
きっと地上には満天の星
短編「Caroline」がカンヌ国際映画祭で注目を集めたセリーヌ・ヘルド&ローガン・ジョージの長編デビュー作。ニューヨークの地下コミュニティでギリギリの生活を送っていた母娘が住む場所を追われ、地上に出たものの、次第に追い詰められていく。原案はジェニファー・トスのノンフィクション『モグラびと ニューヨーク地下生活者たち』。出演は監督兼任のセリーヌ・ヘルド、これが映画初出演となる新星ザイラ・ファーマー。
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映画評論家
上島春彦
ファンタジーみたいな邦題は果たして損したのか得したのか。ニューヨークの地下鉄のそのもう一つ下の階の空隙に暮らすホームレス母子。追い立てられた子供の初めての地上行を厳格なカメラアイで描く。最近は珍しくなった正確な視線演出が緊迫感を醸成し、地下鉄で母子がはぐれる場面での手持ち撮影も秀逸。日本のピンク集団、獅子プロ作品みたいだね。映画は低予算に限る。地下二階から地上数階までの上下空間に運動は限定され、その往還を経て理知的な結末が導かれるのが上手い。
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映画執筆家
児玉美月
暗闇のなかに煌めく星たちを模したファーストショット。続くショットで佇む子供のまなざしにより、空中の塵を星と幻視していたに過ぎないことがすぐさま流露される。この子供の世界に本物の星は存在しないらしい。わたしたちは映画がはじまってから子供の姿をまざまざと見つめていたはずなのに、やがて終盤になるにつれ彼女の顔は雑踏にかき消され目を凝らそうと見えなくなっていく。母が子の人生のために決断する物語であり、試練の雪崩に居た堪れなくはなるが、総じて美しい映画。
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映画監督
宮崎大祐
左右ではなく上下に分断されてしまった世界。コロナ後の、外部を想像するのが難しい暗く閉ざされた空間。そこで展開される観客の同情を誘うようなエモーショナルな芝居とそれらを捉える複眼的なカメラアイ。このように本作は2020年代の人類および映画表現が直面する主題が一通り納められている、非常に同時代的な作品である。しかしそれらはあくまで作者の頭の中で適度に組み立てられたものであり、最後まで作者の手を離れた映画的飛躍が見られなかったのが口惜しい。
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