1秒先の彼の映画専門家レビュー一覧

1秒先の彼

台湾アカデミー賞で作品賞、監督賞などを含む歴代最多受賞を果たした「1秒先の彼女」の日本版リメイク。何をするにも人より1秒早いハジメと1秒遅いレイカの、絶妙にタイミングが合わない「時差(タイムラグ)」ラブストーリー。監督・山下敦弘と脚本家・宮藤官九郎が初タッグを組み、男女の設定をオリジナルから反転させ、舞台を日本の京都に移した。W主演を務めるのは、ハジメ役の岡田将生とレイカ役の清原果耶。岡田将生は山下監督の「天然コケッコー」(07)では、都会から来たクールな中学生を、宮藤脚本のドラマ『ゆとりですがなにか』(16)では、コミカルでまじめなサラリーマンを演じたが、それらのキャリアが生かされた「残念なイケメン」を関西弁で演じた。清原は世間の速さになじめない、どこか「どんくさい」ヒロインを演じきった。
  • 文筆家

    和泉萌香

    早く振り向いて! 清原果耶がまっすぐこちらを向いたときから、映画はまったく別の貌をして輝き始めるよう。「蚊を殺す」なんていうアクションで、時の流れが変わる予感が甘美によぎるのはきっと彼女だから。生の時間と死の時間を自在に操る映画という場所を独り占めしてゆったりと逍遙するシーンが白眉。それにしても焦がれ、待ち続けた恋人は、人形のようにいつも眠っていたほうがよいものか。<案内人>と<放浪者>を体現する、荒川良々と加藤雅也も安心の存在感、チャーミングで素敵!

  • フランス文学者

    谷昌親

    オリジナル版とは男女を入れ替え、「1秒先の彼女」でなく、「1秒先の彼」にしたことで、岡田将生のとぼけた味わいがうまく活かされているし、舞台が京都というのも魅力的だ。そのため、映画の前半はきわめて快調なのだが、後半の謎解きのパートになると失速してしまう。そもそも、動きが止まるというのは、アクションを描くことで成り立つはずの映画という表現形式には向いていないわけで、オリジナル版から受け継いだ設定ゆえに生じた難題は、残念ながら解決されないままだ。

  • 映画評論家

    吉田広明

    普通に一本の映画として見て幸福な気分になれる娯楽作だが、原作からの変更の工夫を見比べるとより味わい深い最上のリメイク。男女逆転で原作にあった微妙な弱点をクリア。さらに主演二人(子役も)がこれ以上ない適役。なぜあれが起きたのかの説明も、京都を舞台にしたことと相まって絶妙。原作自体そうなのだが羅生門形式、その使い方が卑怯極まりない「怪物」は本作を見て慙愧するだろう。この二作、公開が一カ月しか違わないのはただの偶然だが、偶然という名の歴史の残酷を感じる。

1 - 3件表示/全3件