オマージュの映画専門家レビュー一覧

オマージュ

韓国を代表するバイプレーヤー、イ・ジョンウンの初単独主演作となるヒューマンドラマ。ヒット作に恵まれない映画監督のジワンは、60年代に活動した女性監督の映画の修復を引き受ける。彼女はフィルムの一部が失われていることに気づき、真相を探っていく。出演は、「あなたの顔の前に」のクォン・ヘヒョ、ドラマ『愛の不時着』のタン・ジュンサン。監督は、「ガラスの庭園」のシン・スウォン。イ・ジョンウンが第15回アジア太平洋映画賞最優秀演技賞を受賞。第34回東京国際映画祭コンペティション部門正式出品作品。
  • 映画監督/脚本家

    いまおかしんじ

    新作が撮れない映画監督。今まで撮ってきた映画もパッとしない。悩みは仕事だけじゃない。家庭もうまくいっていない。関心のない夫に減らず口を叩く息子。バイトで昔の映画の修復作業。失われたフィルムを探す旅。かつて編集部だったおばあさんが久しぶりにフィルムを手にしたときの高揚した顔が忘れられない。車の中で自殺した女性。潰れかけの映画館。幽霊の声。そこここに死の匂いがする。修復作業は死んだものを生き返らせる作業。彼女がだんだん図太くなっていくのが面白い。

  • 文筆家/俳優

    睡蓮みどり

    「女は30過ぎたら書き手としてつまらなくなる」「結婚したら女優として使いづらい」そんな呪いの言葉が蘇る。女がタバコを吸うだけで検閲によりカットされた時代、どれだけ女性が映画監督でいることが大変だったか。子の存在を同性の仲間にさえ隠さなければならないなんて。過去に思いを馳せながら今を生きるジワンが映画の音声修復をめぐり奮闘する。取り壊し寸前の映画館、カットされたフォルムを繋ぐシーン、どの瞬間も優しく強いリスペクトと映画愛に満ち溢れた傑作。

  • 映画批評家、都立大助教

    須藤健太郎

    シン・スウォン自身が韓国映画初の2人の女性監督の足跡を辿る内容のドキュメンタリーを2011年に監督しており、本作はそれを基にした作品だという。「女判事」も実在する映画とのこと。映画史のミッシングピースを埋める作業こそが新たな映画作りそのものなのだ。頼りになるのは田舎で隠退生活を送る編集者の女性。まな板が編集台となり、フィルムの断片がつなぎ合わされる。シーツはスクリーンとなり、かたや廃墟と化した映画館のスクリーンは路上を映す鏡となる。知性の輝き。

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