本を綴るの映画専門家レビュー一覧
本を綴る
「犬部!」の篠原哲雄監督が俳優・脚本家の千勝一凛と組んだ、書店や本の魅力を伝えるYouTubeドラマ『本を贈る』の続編にあたるロードムービー。小説を書けなくなった作家が全国の書店をめぐる旅を通じて様々な人々と出会い、書けなくなった原因と向き合っていく。作家の一ノ関哲弘をバイプレイヤーとして数多くの作品に出演する矢柴俊博が演じるほか、元宝塚歌劇団星組の宮本真希、「大事なことほど小声でささやく」の遠藤久美子らが出演。那須塩原市図書館みるる、京都の恵文社、香川県の移動図書館などを舞台にしている。2023年12月1日よりフォーラム那須塩原にて先行公開され、2024年全国ロードショー。
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ライター、編集
岡本敦史
一応は本好き、本屋好きではあるのに全然ピンと来なかったのは、きっと求めるものが違うからだろう。本屋にお洒落さとか居心地のよさはいらないので、むしろ最も平板に撮っている宮脇書店の棚の充実にいちばんそそられた。雑然としてればなお良し。ついでに言うと物書きが旅先で自然の景観や土地の空気に触れるときも、もっと目まぐるしく思考は渦巻いているのでは。淡い恋情に背を向けてでも現実の悲劇を書かずにいられない作家性の話なのかと思いきや、そうならないのも不可思議。
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映画評論家
北川れい子
書けなくなった作家が、地方の図書館のイベントに参加したり、各地の個性的な本屋さんを訪ね歩くという、ドキュドラマ仕立てのロードムービーだが、じつに誠実で穏やか、控えめでぬくもりのある作品で、映像がまた美しい。そして本と本屋さんに対するリスペクト。現実には人々の本離れで、町から次々と本屋さんが消えている。があえてそれには触れずに、本を通してのエピソードに話を滑らせているのも効果的で、細やかな演出も気持ちがいい。作家役・矢柴俊博のキャラと演技は絶賛したい。
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映画評論家
吉田伊知郎
基になったYouTubeドラマは未見ながら、本に絡んだ書物に目がないだけに、京都の恵文社などが登場する本作も、終始好意的に眺めていた。過剰に本への愛情を注ぐこともなく、さり気なく語るのが好ましい。贔屓筋である矢柴俊博の軽妙さも良く、痕跡本から始まる旅などエピソードも無理がない。小品の理想的な在り方だ。本を利用して別のものを語ろうとする嫌らしさがないからだろう。本をめぐる旅の映画だけに、移動中に本を読むカットが欲しかったと思うのはないものねだりか。
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