劇場版 アナウンサーたちの戦争の映画専門家レビュー一覧
劇場版 アナウンサーたちの戦争
実話を基に、第二次大戦中の日本放送協会とそのアナウンサーたちの活動を森田剛主演で活写した戦争ドラマ。国民の勝利への士気を高めるべく力強い声をラジオに乗せプロパガンダの先頭に立つアナウンサーたちだったが、和田は大本営発表を疑問視し始め……。2023年8月14日にNHK総合テレビで放送されたTVドラマの劇場版。監督は、NHKで『おかえりモネ』などの連続テレビ小説や『いだてん~東京オリムピック噺~』などの大河ドラマの演出を手がけた一木正恵。開戦ニュースと玉音放送の両方に携わった和田信賢アナを森田剛が演じるほか、「熱のあとに」の橋本愛、「罪と悪」の高良健吾らが出演。戦時中における放送と戦争の関わりと関係者たちの心情を描く。
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文筆家
和泉萌香
全篇にわたるナレーションとテロップをふくむ構成に、見ているのはNHKのドラマ……という印象は拭えないが、呑気に茶番を流しているらしい今のテレビを思うと、映画は(もう一つのレビュー作品である「マミー」でも同様のことを感じたが)まだ間に合う、という気がしてくる。主に焦点が当てられるのは和田信賢の葛藤で、他のアナウンサーたちは登場時間は決して長くはないものの、それぞれの「貌」は(親切な説明もあり)強く焼きつくし、実枝子さんの物語などもスピンオフで見てみたい。
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フランス文学者
谷昌親
NHKらしい題材であり、記録映像をふんだんに用いていることも含めて、NHKだからこその作品でもある。さらに、国が戦時体制を突き進み、報道すらも戦意高揚の道具とされていくなかで、決断を迫られたアナウンサーたちが味わうことになった苦悩を描いている点は、いまのように報道そのものの信頼性が問われる時代にあっては貴重であり、見ごたえもある。だが、「劇場版」と銘打ちながら、再編集後も、どうにもテレビ番組的としか見えない作りのままであるのは否定できないだろう。
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映画評論家
吉田広明
ポイントは二点。総力戦である戦争における市民(アナウンサー)の戦争への加担の問題。その声が人々を鼓舞してしまうとしたら、その責任は如何。第二に、情報戦として敵に、あるいは戦況を隠すため市民に流される偽ニュース。フェイクニュースが問題になる現在に反省の材料を与える。何が「事実」かは難しい話だが、主人公は上から流されてきた情報を垂れ流すのでなく、調べて話す。それが彼の言葉に力を与える。昨今の記者クラブの在り方を含め、報道とは何かを考えさせる作品。
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