映画専門家レビュー一覧

  • きのう生まれたわけじゃない

    • 映画評論家

      吉田広明

      監督の評価したピンク映画は、断絶や軋みに満ちた社会の中で、性を通じてギリギリ結ばれる関係を通じて現在を炙り出すという意味で批評的なものでもあった。ここでは人間関係は軽やかに結ばれ、また解かれてゆく。人の心が分かる子どもと、死んだ妻と会話する老人。彼らは、心の中と外、生と死、その境界を自在に踏み越える。ユートピア的な境地であり、これが遺作となったことにいささかの感慨を覚える。ただ社会の周辺に置かれた存在のみにそれが託されるのは若干寂しい気はする。

    • 文筆家

      和泉萌香

      空への道を駆け回る光が我々の視線を軽やかに奪っていく。時には、此処では流れてはいない時間のなかでひとり言葉を発しもする登場人物たち。あちらこちらに散りばめられた黄色が次々に目に飛び込んだあと、ぱっと広がった照葉には思わず星空のような、とつぶやきたくなるほど。詩人が辿り着く海や雲の形、それぞれ異なる色をして並ぶ木々といった自然の美しさに、大袈裟でなく驚き嬉しくなってしまう。てんとう虫は枝や指先に止まったら一番高いところまで上り、飛んでいくそうだ。

    • フランス文学者

      谷昌親

      詩人でもある福間健二監督が少女と老人の交流を描いた作品。少女・七海と元船乗りの老人・寺田の関係を軸に、そこに他の人物たちのさまざまなエピソードがからむのだが、エピソードの積み重ね方、そして人物のとらえ方や演技はむしろドキュメンタリーを思わせ、結果として、独特の詩的な感触が生み出される。福間監督が慣れ親しんだ国立市の風景が魅力的だし、川べりの公園での飛翔シーンに心を動かされる。だが、残念なことに、詩と映画が理想的なかたちで融合できたとはいいがたい。

    • 映画評論家

      吉田広明

      監督の評価したピンク映画は、断絶や軋みに満ちた社会の中で、性を通じてギリギリ結ばれる関係を通じて現在を炙り出すという意味で批評的なものでもあった。ここでは人間関係は軽やかに結ばれ、また解かれてゆく。人の心が分かる子どもと、死んだ妻と会話する老人。彼らは、心の中と外、生と死、その境界を自在に踏み越える。ユートピア的な境地であり、これが遺作となったことにいささかの感慨を覚える。ただ社会の周辺に置かれた存在のみにそれが託されるのは若干寂しい気はする。

  • 花腐し

    • ライター、編集

      岡本敦史

      作り手の狙いが完璧に達成されていれば、しかもそれが面白ければ、星の数を減らす理由がない。個人の好き嫌いとか、観る人を選ぶかもという心配とか、要らぬお世話に思えてくる。荒井晴彦作品に望む男女のドラマが濃密に描かれていて、綾野剛のいままでにない芝居が観られて、柄本佑が相変わらず荒井演出のもとで生き生きしていて、ピンク映画業界へのオマージュが重くも軽くも込められた、しかも近年最もモノクロ画面が冴えた作品であれば、やっぱり観ない理由は探せなかった。

    • 映画評論家

      北川れい子

      寒々しい波打ち際に横たわる濡れそぼった男女の死体。男は新作を準備中のピンク映画の監督で、女はその作品で主役を演じるはずだった。という場面からスタートするが、話の軸は、死んだ女と時間差で深く関わった2人の男の、不甲斐ない傷の舐め合いで、現在をモノクロ、過去はカラーという演出もくすぐったい。さしずめ希望は過去にしかない? 新宿ゴールデン街でクダを巻く場面や、アダルト映画顔負けの場面も。後ろ向きでクセのある、死んだ女とピンク映画へのレクイエムか。

    • 映画評論家

      吉田伊知郎

      前作は食と性を介して男女を描いた荒井監督が今回は著書『争議あり』を基に細部を形成したかのような固有名詞と自己言及をちりばめる。実名を連ねて時代を形成し、雨と歌と性を重ねていく。「新宿乱れ街」の30数年後を描いた後期高齢者の繰り言かと思いきや、劇中の同時代にシナリオ講座へ通い、国映の成人映画を観ながらピンク映画のシナリオを応募していた筆者などは自分を重ねてしまい、心が揺れる。「身も心も」の奥田瑛二&柄本明を凌駕していく綾野剛&柄本佑に見惚れる。

  • 法廷遊戯

    • ライター、編集

      岡本敦史

      人は誰でも嘘をつくという作中世界のルールでもあるのか、「単刀直入に訊けばよかろう」と思わせる場面が続き、とにかく回りくどい。どんでん返しのお膳立てとして小説なら成立していたかもしれないが、2時間の映画では難しい。法廷ドラマとしても、現行の司法制度への批判と、裁判制度自体への揶揄がゴッチャになっていて、そもそも「裁判は犯人当ての場ではない」という大前提の理解すら怪しい。いちばん恐ろしいのは、このタイミングで「贖罪から逃れる物語」を映画化したことだ。

    • 映画評論家

      北川れい子

      司法制度の改革とか、冤罪とはとか、頻出する法律関係の用語が話を惑わせるが、描かれるのはロースクールで学んだ3人の手の込んだ因縁話で、観終わっての後味はかなり消化不良! 少しずつ明らかになる彼らの重い過去が、無責任な大人や法律の不備にあるというのは分からないでもないが、回想というより後出しジャンケンふうな真相の出しかたもズルい。ミステリーではよくある手だが。後半の裁判場面が学生たちの模擬裁判と大差ないのは「法廷遊戯」というタイトルへの忠節?

    • 映画評論家

      吉田伊知郎

      ひたすら設定だけを説明され続けているかのようで、映画を観ている感覚にならず。ロースクールで暇つぶしに行われる〈無辜ゲーム〉や、生徒たちが揃って示す反抗のポーズなども、無国籍的な世界観が作られていれば良いが、日本とは思えず。「ソロモンの偽証」が前後篇使って学校内裁判を成立させていたことを思えば、この状況にすんなり入りきれず。過去の因縁話も説明に説明を重ねられて明かされるだけに、驚きが薄い。登場人物たちはゲームのコマのように動かされるのみ。

  • 正欲

    • 文筆家

      和泉萌香

      眉毛をべったり(!)描いて登場する新垣結衣が、ベッドに寝転んだ自分を発見して鏡を隠す。欲望を感じる自分自身の姿は、見たくない。新垣はじめ俳優たちが向かいあうごと、カメラは各々の顔をとらえ、彼らの瞳もまた拒絶、歩み寄り、興味、空洞、時に鏡のような表情を見せるのが素晴らしい。〈普通〉とは異なる欲望を抱く人々を描きながらも、物語は社会において最も守られるべき存在に対しての姿勢は徹底し、許してはならないそれへ引いた線は崩さない。原作も読まなければ。

    • フランス文学者

      谷昌親

      物語やテーマは原作から受け継いだものではあるが、ここまで多様性について考えさせてくれる作品はあまりない。同時に、岸善幸監督がインタヴューで強調する「二面性」にも関係する作品になっていて、まさにそれが、「二重生活」以来の監督の関心事だと感じさせる。その二面性に最も苦しむのが、新垣結衣が演じた夏月だ。その夏月や彼女と秘密を共有する佳道に観客は共感するようになるのだが、もし別の性的指向を描いた場合でもそうなるのか、という疑問がどうしても残ってしまう。

    • 映画評論家

      吉田広明

      人と違う嗜好を持つために生きづらい人々の連帯という主題自体は全くの正論、異論の余地もないが、しかしその嗜好が水フェチ程度で自分を宇宙人に感じるとかお前は社会のバグだと言われるとは大仰過ぎないか。それは異端性の一つの比喩に過ぎず入れ替え可能とは逃げ口上で、水だからこそ観客は安心しているし、それが静謐な映画のトーンを決定するのだから、唐突にそれを言語道断な性的暴力と一緒くたにして衝撃を与えるのは無理筋。為にする設定、安易な想像力の所産というほかない。

  • 花腐し

    • ライター、編集

      岡本敦史

      作り手の狙いが完璧に達成されていれば、しかもそれが面白ければ、星の数を減らす理由がない。個人の好き嫌いとか、観る人を選ぶかもという心配とか、要らぬお世話に思えてくる。荒井晴彦作品に望む男女のドラマが濃密に描かれていて、綾野剛のいままでにない芝居が観られて、柄本佑が相変わらず荒井演出のもとで生き生きしていて、ピンク映画業界へのオマージュが重くも軽くも込められた、しかも近年最もモノクロ画面が冴えた作品であれば、やっぱり観ない理由は探せなかった。

    • 映画評論家

      北川れい子

      寒々しい波打ち際に横たわる濡れそぼった男女の死体。男は新作を準備中のピンク映画の監督で、女はその作品で主役を演じるはずだった。という場面からスタートするが、話の軸は、死んだ女と時間差で深く関わった2人の男の、不甲斐ない傷の舐め合いで、現在をモノクロ、過去はカラーという演出もくすぐったい。さしずめ希望は過去にしかない? 新宿ゴールデン街でクダを巻く場面や、アダルト映画顔負けの場面も。後ろ向きでクセのある、死んだ女とピンク映画へのレクイエムか。

    • 映画評論家

      吉田伊知郎

      前作は食と性を介して男女を描いた荒井監督が今回は著書『争議あり』を基に細部を形成したかのような固有名詞と自己言及をちりばめる。実名を連ねて時代を形成し、雨と歌と性を重ねていく。「新宿乱れ街」の30数年後を描いた後期高齢者の繰り言かと思いきや、劇中の同時代にシナリオ講座へ通い、国映の成人映画を観ながらピンク映画のシナリオを応募していた筆者などは自分を重ねてしまい、心が揺れる。「身も心も」の奥田瑛二&柄本明を凌駕していく綾野剛&柄本佑に見惚れる。

  • 法廷遊戯

    • ライター、編集

      岡本敦史

      人は誰でも嘘をつくという作中世界のルールでもあるのか、「単刀直入に訊けばよかろう」と思わせる場面が続き、とにかく回りくどい。どんでん返しのお膳立てとして小説なら成立していたかもしれないが、2時間の映画では難しい。法廷ドラマとしても、現行の司法制度への批判と、裁判制度自体への揶揄がゴッチャになっていて、そもそも「裁判は犯人当ての場ではない」という大前提の理解すら怪しい。いちばん恐ろしいのは、このタイミングで「贖罪から逃れる物語」を映画化したことだ。

    • 映画評論家

      北川れい子

      司法制度の改革とか、冤罪とはとか、頻出する法律関係の用語が話を惑わせるが、描かれるのはロースクールで学んだ3人の手の込んだ因縁話で、観終わっての後味はかなり消化不良! 少しずつ明らかになる彼らの重い過去が、無責任な大人や法律の不備にあるというのは分からないでもないが、回想というより後出しジャンケンふうな真相の出しかたもズルい。ミステリーではよくある手だが。後半の裁判場面が学生たちの模擬裁判と大差ないのは「法廷遊戯」というタイトルへの忠節?

    • 映画評論家

      吉田伊知郎

      ひたすら設定だけを説明され続けているかのようで、映画を観ている感覚にならず。ロースクールで暇つぶしに行われる〈無辜ゲーム〉や、生徒たちが揃って示す反抗のポーズなども、無国籍的な世界観が作られていれば良いが、日本とは思えず。「ソロモンの偽証」が前後篇使って学校内裁判を成立させていたことを思えば、この状況にすんなり入りきれず。過去の因縁話も説明に説明を重ねられて明かされるだけに、驚きが薄い。登場人物たちはゲームのコマのように動かされるのみ。

  • 正欲

    • 文筆家

      和泉萌香

      眉毛をべったり(!)描いて登場する新垣結衣が、ベッドに寝転んだ自分を発見して鏡を隠す。欲望を感じる自分自身の姿は、見たくない。新垣はじめ俳優たちが向かいあうごと、カメラは各々の顔をとらえ、彼らの瞳もまた拒絶、歩み寄り、興味、空洞、時に鏡のような表情を見せるのが素晴らしい。〈普通〉とは異なる欲望を抱く人々を描きながらも、物語は社会において最も守られるべき存在に対しての姿勢は徹底し、許してはならないそれへ引いた線は崩さない。原作も読まなければ。

81 - 100件表示/全4921件

今日は映画何の日?

注目記事