青山真治 アオヤマシンジ

  • 出身地:福岡県北九州市
  • 生年月日:1964/07/13
  • 没年月日:2022/03/21

略歴 / Brief history

【映画という大枠で戦後父権社会を問う考察の作家】福岡県北九州市の生まれ。在郷の高校時代までは音楽に熱中し、1984年に立教大学文学部英米文学科に進んでからは、映研で映画制作に取り組んだ。当時教鞭をとっていた蓮實重彦より強い影響を受け、89年の卒業後にディレクターズ・カンパニーの現場に参加、フリーの助監督となる。主に黒沢清や井筒和幸につき、同世代新進監督のバックアップをしていた頃の95年、黒沢の推薦によりOV『教科書にないッ!』を初監督。さらに助監督時代に出会った仙頭武則プロデューサーと組み、96年の「Helpless」で劇場デビューを飾った。以後、仙頭とは折々に意欲作を発表し、撮影の田村正毅もおよその作品を担当することになる。WOWOWプロデュースで発表された「Helpless」は思索性の高い青春ドラマとして評価され、多くの国際映画祭に出品された。以降も小規模作品を間断なく手がけ、快進撃は2000年代まで続く。「冷たい血」(97)などOV枠のジャンル映画や、「路地へ・中上健次の残したフィルム」(00)といった自主製作の記録映画などフィルモグラフィーは多彩。00年には3時間半の大作「EUREKA」がカンヌ映画祭で国際批評家連盟賞とエキュメニック賞をW受賞、一躍国際舞台に躍り出て、以降の作品もたびたび映画祭に招かれるようになった。大手映画会社の作品に招かれることはないものの監督作は継続的にあり、07年の「サッドヴァケイション」は「EUREKA」以来のキネマ旬報ベスト・テン入りを果たしている。02年に女優のとよた真帆と結婚。音楽ドキュメンタリーもよく手がけ、06年の「AA」は7時間超の大作として話題になった。【物語を映し、見えないものを描く】黒沢清、周防正行、塩田明彦らに続き、蓮實門下生とも言える立教ヌーヴェルヴァーグの末尾をとった映画作家。助監督時代より評論活動も並行し、自身の監督作で映画論や現代思想を実践する面がある。フィルモグラフィーには原作もの・ジャンル映画が散見されるが、映画的に凝らした映像で綴る物語の裏側に、戦後社会を見据えた批評を含むことはよく指摘される。「Helpless」は父親ややくざ組長の喪失を通じて天皇制に言及し、「冷たい血」は内臓を喪った身体に空洞社会を象徴させた。あるいは端的に「月の砂漠」(01)のIT起業や「レイクサイドマーダーケース」(04)の受験競争といった世相を材に取り、現代の家族像や愛を問いもする。その芯を貫くのは父性や国家の脆弱さであり、こうした思索性を故郷の風土で展開させた作品群が「Helpless」「EUREKA」「サッドヴァケイション」の3部作。これらは“北九州サーガ”と名付けられ、「サッドヴァケイション」では視点が強靱な母性に転じて、青山による戦後社会統括の転換点とみられている。

青山真治の関連作品 / Related Work

作品情報を見る

  • BAUS 映画から船出した映画館

    制作年: 2025
    映画上映だけに留まらず、演劇・音楽・落語など、多くの観客と作り手に愛され2014年に閉館した吉祥寺バウスシアター。その道のりは1925年につくられた“井の頭会館”から始まった。時流に翻弄されながらも劇場を守り続け、娯楽を届けた人々の姿を描く人間ドラマ。出演は「きみの鳥はうたえる」の染谷将太、「越年 Lovers」の峯田和伸、「ブルーアワーにぶっ飛ばす」の夏帆。本田拓夫によるノンフィクション『吉祥寺に育てられた映画館 イノカン・MEG・バウス 吉祥寺っ子映画館三代記』を原作に、故・青山真治が着々と温めていた脚本を「はだかのゆめ」の甫木元空が引き継ぎ執筆、自ら監督した。
  • 空に住む

    制作年: 2020
    作詞家・小竹正人による同名小説を原作に、青山真治監督が多部未華子主演で映画化。両親が急死し、大都会を見下ろすタワーマンションの高層階に住むことになった直実。喪失感を抱えた彼女の前に現れたのは、同じマンションに住むスター俳優・時戸森則だった。共演は「愛がなんだ」の岸井ゆきの、「パラレルワールド・ラブストーリー」の美村里江、「去年の冬、きみと別れ」の岩田剛典。
  • はるねこ

    制作年: 2016
    多摩美術大学卒業制作作品「終わりのない歌」が第26回東京学生映画祭準グランプリを受賞した甫木元空が、脚本・編集・音楽・監督を務めた長編第1作。黄泉との境である森で店長は、母であるばーは自分と一緒に死ぬためにここに来たのではないかと想像する。「共喰い」の青山真治による劇映画初プロデュース作品。出演は、「FUGAKU1/犬小屋のゾンビ」の山本圭祐、「陽だまりの彼女」の岩田龍門。
  • 破れたハートを売り物に

    制作年: 2015
    青山真治、榊英雄、長澤雅彦、橋本一、三島有紀子の5人の映画監督が甲斐バンドの楽曲をモチーフに、それぞれの視点で製作した短編映画集。榊英雄監督作品「父と息子」には、船越英一郎、大森南朋出演。三島有紀子監督作品「オヤジファイト」には、マキタスポーツ、渋川清彦出演。長澤雅彦監督作品「この柔らかい世界」には、松田美由紀、手塚真生出演。橋本一監督作品「熱海少年探偵団」には、山田瑛瑠、永瀬匡出演。青山真治監督作品「ヤキマ・カナットによろしく」には、光石研、片岡礼子出演。
  • 最上のプロポーズ

    制作年: 2013
    向井理、斎藤工、金子ノブアキ、小出恵介が主演した恋愛オムニバス。フラワーショップを舞台に、それぞれに幸せを信じる4人の男が「初恋」「ひと目ぼれ」「奇跡を信じる恋」「恋の修復」をテーマにしたプロポーズにまつわる物語を紡ぐ。【スタッフ&キャスト】監督:青山真治 脚本:桑村さやか 主題歌:東方神起 出演:向井理/斎藤工/金子ノブアキ/小出恵介/伊藤歩
  • 共喰い

    制作年: 2013
    第146回芥川賞を受賞した田中慎弥の同名小説を「東京公園」で第64回ロカルノ国際映画祭金豹審査員特別賞を受賞した青山真治監督が映画化。父親の忌むべき性癖が自分にも受け継がれていることに気付いた男子高校生を通し、人間の根底に潜んでいる闇を炙りだす。脚本は「大鹿村騒動記」で第85回キネマ旬報ベスト・テン日本映画脚本賞を阪本順治とともに受賞した荒井晴彦。原作とはまた一味違うラストが用意されている。今にも暴走しそうな男子高校生を「王様とボク」の菅田将暉が演じている。ほか、「GANTZ」の木下美咲、「おだやかな日常」の篠原友希子、「あぜ道のダンディ」の光石研、「いつか読書する日」の田中裕子らが出演。